研究課題
本研究は、メダカを含む真骨魚類をモデルに、1.アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の重複、分子進化と多様な真骨魚類の二次性徴との関連性、2.雄性形質発現の分子基盤となるアンドロゲン応答の分子機構と、その下流のシグナリングネットワークの解明、3.複数の非モデル真骨魚類と二次性徴発現機構を比較解析し、アンドロゲンによって誘導される生物多様性の根源的な理解を深めるものである。初年度は、真骨魚類2分子種ARの分子機能、構造比較解析およびメダカAR 変異体の個体レベルの表現型解析(形態、繁殖行動解析)を重点的に進めた。真骨魚類で広く見られる2分子種AR タンパク質の転写活性の相違は、リガンドと相互作用するアミノ酸1残塩置換に起因し、リガンドとレセプターの相互作用の変化をもたらしていることが明らかとなった。ARβ変異体メダカの雄は、尻鰭や背びれに見られる雄の形質が欠損しており、外部形態に現れる繁殖形質の多くは、ARβ遺伝子によって制御されていることがわかった。一方、ARα変異体メダカ雄は、鰭における形態異常は示さなかったが、繁殖行動解析から性的なモチベーションが維持できない傾向が認められた。以上の結果から、真骨魚類2分子AR遺伝子は生体内において異なる機能を担っていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
真骨魚類2分子種ARの分子機能、構造の相違、その進化過程がin vitro機能解析およびコンピューターシュミレーションにより明らかとなった (Ogino et al. Mol Biol Evol. 2006)。さらに、メダカAR 変異体の個体レベルの形態、繁殖行動解析から、本研究の最重要主眼であるARα, ARβの生体内での機能分担についての情報を得ることができた。これらの結果から、多様な雄性形質発現の遺伝的背景として、AR 遺伝子重複の進化学的意義が明らかとなった。一方で、アンドロゲン応答性Creメダカの作出においては、トゲウオスピギン遺伝子由来アンドロゲン応答配列を用いてトランスジェニックメダカを作出したが、十分な発現が得られておらず、改良を進めている。
アンドロゲン応答に必須の分子環境についての情報を得ると共に、アンドロゲン応答と形態形成制御遺伝子との間の遺伝子、シグナリングネットワークを解明する。具体的には、アンドロゲン応答性の未分化間葉細胞に注目し、メダカ、カダヤシ、ソードティルフィッシュを用いた比較解析を進める。ARE-Cre メダカ系統、ARα, ARβをGFPとの融合遺伝子として発現するAR-GFPノックインメダカの作出を引き続き進め、アンドロゲン応答性細胞の単離、AR サブタイプ特異的標的遺伝子群をスクリーニングする。
初年度は分子進化解析、繁殖行動解析、表現型解析を中心として進めており、遺伝子発現解析について必要な試薬等の購入経費の使用が次年度となった。
本年度は、表現型発現に至る分子基盤、すなわちAR遺伝子重複によるアンドロゲンシグナリングネットワークの拡大について、詳細な分子レベルの解析が必要である。よって、遺伝子発現解析や新たなtoolとして開発しているトランスジェニックメダカの作出に経費を必要とする。
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