研究課題/領域番号 |
15K07138
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
荻野 由紀子 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00404343)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アンドロゲン / 二次性徴 / 性行動 / 真骨魚類 / ゲノム重複 |
研究実績の概要 |
本研究は、メダカAR変異体表現型解析から、多様な雄性形質発現の遺伝的背景として、AR遺伝子重複の進化学的意義を探索すると共に、非モデル真骨魚類の二次性徴と比較解析し、多様性の根本となるアンドロゲン応答と形態形成制御遺伝子との間の遺伝子・シグナリングネットワークを解明することを目的としている。昨年度に引き続きメダカ変異体のARパラログ特異的な表現型を外部形態のみならず、生殖腺分化、繁殖行動について解析するとともに、遺伝子発現解析を進めた。昨年の解析からARパラログ特異的な制御を受けることが明らかとなった歯や鰭に現れる表現型の重要性ついて、繁殖行動解析、ハイスピードカメラ撮影を駆使し、表現型の個体間相互作用に及ぼす影響を解析した。これまでに、歯は雄同士の闘争に、鰭は雌雄の識別に重要であることを示唆する結果を得ている。さらに、アンドロゲンが制御する分化遺伝子カスケードついて包括的な理解を進めるために、これまでにアンドロゲン応答因子として重要性が明らかとなったWntシグナリングについて、Wntシグナリング阻害剤とアンドロゲンの供与試験により魚種間での比較解析を行った。Wntシグナリング阻害により、いずれの魚類においても、未分化間葉細胞の増殖が低下し、二次性徴発現が強く抑制された。このことはWntシグナリングがアンドロゲン応答の初期因子として種を超えて魚類の二次性徴の誘導機構に広く関与していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AR変異体メダカを用いた表現型解析により、行動、外部形態、内生殖器について、ARα、ARβ変異体の表現型が明らかとなり、組織レベル、各分化マーカー因子の解析情報が集積した。メダカの外部形態に現れる個々の二次性徴形質の個体間相互作用に果たす役割を行動解析から示すことができた。一方で、詳細な遺伝子発現解析に必要なトランスジェニックメダカ系統の樹立が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、AR サブタイプ特異的標的遺伝子群について、特に形態形成制御群に着目したスクリーニングを進め、ARα、ARβそれぞれのシグナリングネットワークの相違を明らかにする。さらに、アンドロゲンが制御する分化遺伝子カスケードを理解するために、標的器官特異的なアンドロゲン応答機構について網羅的な遺伝子発現解析を進める。 既に他魚種間で共通して重要性が明確となったWntシグナリングについて、Lef1などのアンドロゲン応答因子のプロモーター解析から、アンドロゲン応答の制御機構の詳細を明らかにする。さらにアンドロゲン応答性の未分化間葉細胞の出現とその維持に必要な遺伝子群を同定し、メダカ、カダヤシ、ソードティルフィッシュを用いた比較解析を元に、二次性徴発現の初期応答の分子機構の詳細を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、所属機関を異動したため、実験計画の開始が遅れた。またAR-GFPメダカなどについて再構築の必要性が生じ、予定していた遺伝子発現解析の一部を繰り越すこととなった。よって、必要な試薬等の購入経費の使用が次年度となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、主にAR標的遺伝子の同定、発現制御機構についての解析を進めるため、レポーターアッセイや遺伝子発現解析に必要な試薬、消耗品を必要とする。また、解析に必要なトランスジェニックメダカ、メダカ変異体系統のgenotyping、表現型解析に使用する消耗品、試薬、飼育器具を必要とする。また、得られた成果についての論文投稿、学会発表に必要な経費を必要とする。
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