研究課題
メラニン凝集ホルモン(MCH)産生神経は、視床下部外側野(LHA)にその細胞体が局在しており、睡眠調節に関与することが明らかになっている。MCH神経と認知機能の関わりについてはまだほとんど報告されていないが、LHAからの主要投射部位に海馬が含まれること、睡眠と記憶という事象には関わりがあることから、我々はMCH神経が海馬依存性の長期記憶に対しても影響していると推察した。これを検証するため、Tet-offシステムにより、ジフテリア毒素A断片を発現させMCH神経を後天的に脱落させることが可能なトランスジェニック(TG)マウスを用いて、MCH神経の長期記憶に及ぼす影響を検討した。雄TGマウス16週齢に、ドキシサイクリン(Dox)無添加餌を4週以上給餌してMCH神経を98%以上脱落させたものをMCH神経脱落群、Dox添加餌を継続給餌したものを対照群とした。二群のマウスの長期記憶を新規物体認知試験と恐怖条件付け試験により評価した。物体を二つ並べた際の新規物体に対する接触率は、MCH神経脱落群が62.4%と対照群の52.1%に比べて有意に高かった。恐怖条件記憶後のすくみ行動発現率についても、MCH神経脱落群は21.7%と対照群の7.0%よりも有意に高い値を示した。また、不安行動の指標であるオープンフィールド試験と高架式十字路試験、痛みの知覚入力の指標となるホットプレート試験についても併せて評価を行ったところ、二群間での差はなかった。以上の結果より、MCH神経が脱落したマウスでは長期記憶力は対照群よりも良いことが明らかになった。MCH神経の活動はノンレム睡眠、レム睡眠時に高いことが報告されており、睡眠時の記憶形成抑制に関わっている可能性が示唆された。
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Endocrine J
巻: 64 ページ: 777-785
小児内科
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