研究課題/領域番号 |
15K07141
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
木村 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80214873)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 昆虫 / ショウジョウバエ / 神経回路網 / 生殖行動 |
研究実績の概要 |
これまでの研究により、dsx発現ニューロン群およびpale(ドーパミン)発現ニューロン群の強制活性化による産卵姿勢行動の誘導が性成熟に伴って生ずることが確認されている。また、ドーパミン合成阻害剤の投与実験の結果から、dsx発現ニューロン群の強制活性化による産卵姿勢行動の誘導はドーパミン合成阻害剤の影響をほとんど受けず、一方、pale発現ニューロン群の強制活性化による産卵姿勢行動の誘導はドーパミン合成阻害剤により抑制されることが示された。このことにより、dsx発現ニューロン群とpale発現ニューロン群は共発現しておらず、pale発現ニューロンが産卵姿勢行動を制御するdsx発現ニューロン群をmodulateしている上位のニューロンである可能性が示唆されている。そこで本年度、dsxとpaleを共発現するニューロンが存在するかどうか、免疫組織化学染色法により調査した。その結果、共発現するニューロンはほとんど存在しないことが明らかになった。また、上記の可能性を検証するために、昨年度に引き続き、産卵姿勢行動を調節するpale発現ニューロン群の同定を試みた。新たな方法として、intersectional flip-out法による特定ニューロンのラベル法を適用して解析を進めたが、同定まで至っていない。そこで、ドーパミンレセプター発現ニューロンの同定から明らかにするように戦略を変更した。ドーパミンレセプターであるDopRとDopR2について、これらリセプター発現ニューロン群にdTRPA1の発現を誘導し、温度上昇により産卵姿勢行動が誘発されるかどうか調査したところ、DopR発現ニューロン群の活性化は腹部の屈曲雌性を誘導し、DopR2ニューロン群の活性化は産卵を誘導することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
産卵姿勢行動を調節するpale発現ニューロン群の同定を試みた。新たな同定方法として、intersectional flip-out法による特定ニューロンをラベルする方法を適用した。118のエンハンサートラップFLP系統を確立し、それらの系統とpale-Gla4系統と交配し、pale-Gla4とエンハンサートラップFlp系統の発現が共通する(intersectional)ニューロン群でdTRPA1の発現を誘導し、温度上昇により産卵姿勢行動が誘発されるかスクリーニングした。しかしながら、安定して産卵姿勢行動を誘発する系統は得られなかった。intersectional flip-out法が機能しているかintersectionalなニューロン群を免疫組織染色で確認したところ、たしかにflip-outが機能していることは確認できたが、系統内でのflip-outの安定性が必ずしも高くない系統が多く存在し、それがスクリーニングで引っかかってこなかった原因の一つと考えられた。産卵姿勢行動を調節するpale発現ニューロン群の同定がなされていない点で、進捗状況としてやや遅れていると評価した。 産卵姿勢行動を調節する神経回路網を明らかにする戦略として、pale(ドーパミン)発現ニューロン群から情報を受け取るドーパミンレセプター発現ニューロンの同定から進めることに変更した。ドーパミンレセプターDopR発現ニューロン群の強制活性化は腹部の屈曲雌性を誘導し、ドーパミンレセプターDopR2ニューロン群の活性化は産卵を誘導することが明らかになった。これはドーパミンにより調節されている行動のレパートリーを、発現しているレセプターの種類を変えることで、別々にコントロールしていることを示唆しており、大変興味深い結果がえられた。
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今後の研究の推進方策 |
pale(ドーパミン)発現ニューロンが産卵姿勢行動を制御するdsx発現ニューロン群をmodulateしている上位のニューロンである可能性の検証をさらに進める。ドーパミンレセプターDopRとDopR2の発現ニューロン群は、その強制活性化により産卵姿勢行動の一部を誘導することが明らかになっている。そこで、それぞれのレセプター発現ニューロンが、dsx発現ニューロン群の一部と共通するものなのかどうか調査し、産卵姿勢行動を制御するドーパミンレセプターとdsxを共発現するニューロン群を同定する。その上で、それらのニューロン群にdTRPA1を強制発現させ、温度上昇により活性化させた時、どのような行動が誘発されるか調査する。さらに、ドーパミンレセプターとdsxを共発現するニューロン群の動作を阻害した時、生殖行動にどのような影響を与えるか調査する。また、ドーパミンレセプターとdsxを共発現するニューロン群とpale 発現ニューロン群の入出力部域と比較し、pale 発現ニューロンが直接ドーパミンレセプターとdsx共発現ニューロン群に接続している可能性を検証する。それらを明らかにした上で、成熟過程に伴って、ドーパミンの合成が変化するか、あるいはレセプターの発現が変化するかを免疫組織染色法により調査し、性成熟に伴う生殖行動発現の神経機構の解明につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究費使用計画のうち、種々節約に努めたこともあり、あわせて29年度物品費に97,956円を繰り入れることが可能となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度品目別内訳として、物品費(試薬、実験消耗品、画像解析用ソフトなど)397,956円、旅費(研究成果の発表)100,000円、人件費・謝金720,000円(実験補助6万円x12ヶ月x1人)、その他(輸送料、英文校閲代等)80,000円、合計1,297,956円を予定している。
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