研究課題/領域番号 |
15K07143
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
佐藤 成樹 千葉大学, 大学院融合科学研究科, 講師 (40261896)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 横紋筋 / 非筋細胞 / 筋収縮 / トロポニン / パラミオシン / 半索動物 / 扁形動物 / ミオシン結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
(1)半索動物の非横紋筋運動細胞におけるトロポニンの探索と筋収縮制御機構の解明:半索動物ギボシムシの筋肉組織から精製した100kDタンパク質がニワトリ砂嚢平滑筋のミオシン線維に結合し、線維を安定化させることが明らかとなった。また、このタンパク質は自己集合して14.4nmの周期を持つパラクリスタルを形成することが電子顕微鏡による観察で明らかとなった。この周期は棘皮動物のナマコや、軟体動物や昆虫のパラミオシンとほぼ同じ値で、本研究で単離した100kDタンパク質が生化学的に半索動物のパラミオシンであることが示された。 (2)扁形動物の非横紋筋運動細胞におけるトロポニンの機能の解析:ゲノム情報からプラナリアに軟体動物TnTと高いホモロジーを示す遺伝子がコードされていることがわかった。本研究ではこの遺伝子の翻訳産物が実際にプラナリア生体内で発現しているのかを検討するため、組み換え体を抗原としてウサギに免疫して抗体を作製した。イムノブロットの結果、筋組織が豊富な咽頭において分子量約42kDの位置に反応が見られ、生体内で発現していることが明らかにされた。これらの結果からTnT、TnI、TnCの三成分がプラナリアの平滑筋に発現していることが示され、扁形動物の非横紋筋細胞にいてもトロポニンが機能する事が示唆された。 (3)横紋筋収縮制御におけるミオシン結合タンパク質の役割の解明: H-タンパク質の組み換え体を作製し、その機能を解析した。その結果、C-タンパク質だけでなくH-タンパク質もアクチン線維に結合して束化をすることが示された。また、その結合部位としてドメイン2が重要であることが示唆された。一方、C-タンパク質については、分子のN端領域だけでなくC端領域にもアクチン結合部位が存在すること、しかしN端側と異なりアクチン束化活性は無いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は 1)非横紋筋細胞におけるトロポニンの新たな機能的役割の解明と、 2)横紋筋収縮制御におけるミオシン結合タンパク質の役割の解明を通して、細胞運動の制御機構に関する従来の概念を再考して、横紋筋及び非横紋筋細胞における運動制御機構の普遍性と多様性を包括的に理解することを目的としている。筋収縮の制御機構に関する従来の学説は、トロポニンは横紋筋(または斜紋筋)に特徴的な筋収縮制御タンパク質複合体で、平滑筋や非筋細胞には存在しないと考えられていた。しかし近年、いくつかの生物の非横紋筋細胞でその発現が確認された。平成28年度の本研究で、扁形動物の非横紋筋細胞にトロポニン3成分の発現が示されたことから、様々な筋細胞や非筋細胞の筋収縮(細胞運動)にトロポニンが普遍的に関与することが示唆された。 一方、半索動物ギボシムシ成体の体壁筋にはトロポニンが存在しないこと、しかしパラミオシンが存在し、ミオシン線維の安定化に寄与することを明らかにした。この研究成果はThe Journal of Biochemistry に発表した。 また、ミオシン結合タンパク質H(H-タンパク質)にアクチン線維結合能が有ることが示され、この分子も筋収縮制御に関与する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)非横紋筋細胞におけるトロポニンの新たな機能的役割の解明: 28年度までの研究により、扁形動物プラナリアにトロポニンが発現していることが示され運動制御機構の普遍性が示された。そこで最終年度はこのトロポニンの機能を明らかにする事で制御機構の多様性を解明する。具体的には組み換え体各成分の性質をin vitroで検討する。特に、TnCのCa2+結合能力、TnIのアクトミオシン相互作用の抑制、TnTとトロポミオシンの結合等を調べる。次いでトロポニン3成分複合体-トロポミオシン-アクチン線維間の協同的結合を調べる。また、アクトミオシン ATPase活性に及ぼす影響を解析し、ブレーキ型とアクセル型のどちらに分類されるかを決定する。さらに、トロポニン各成分の発現をRNAiにより抑制し、その機能をin vivoで明らかにする。 (2)横紋筋収縮制御におけるミオシン結合タンパク質の役割の解明: C-タンパク質、H-タンパク質共に横紋筋特異的なミオシン結合タンパク質として同定されたのにも関わらず、本研究によりアクチン線維結合能を持つことが明らかとなった。そこで、本年度はそれぞれのタンパク質におけるアクチン結合について詳細に解析し、その分子メカニズムを明らかにする。また、アクチン―ミオシン相互作用に及ぼす影響も解析し、筋収縮における役割を解明する。
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