動物の光環境応答の制御メカニズムを明らかにするため、真骨魚類ゼブラフィッシュを動物モデルとして次のように研究を進めた。 ◎これまで、成体型の体色変化(背地適応)を制御する光受容分子P470としてメラノプシン遺伝子の一つを同定し、この遺伝子の発現細胞を蛍光蛋白質で標識する組換系統を樹立した。本年度はP470発現細胞の光応答測定に向けて、組換個体の網膜ニューロンを分散培養する条件を検討した。光応答測定用の顕微鏡システムを用いた観察の結果、培養条件下で単離P470発現細胞を特定することに成功した。一方、2日齢幼生は成体型とは異なる体色変化(幼生型)を示すことがわかっている。幼生型体色変化を制御する光受容分子の波長特性を推定するため、2日齢幼生において、420~580nmの単一波長の刺激光に対する体色変化を調べた。その結果、体色変化の波長依存性が成体型とは異なることが示唆された。幼生型の体色変化には成体型とは別の光受容分子群が関与すると考えられる。 ◎脊椎動物の祖先種は色センサー分子として4種類の錐体視物質(紫・青・緑・赤)をもち、4色型の色覚が原型であると考えられているが、青と緑の錐体視物質が果たす役割やそれらの遺伝子制御の仕組みは謎に包まれていた。網膜錐体に発現する遺伝子群を機能解析した結果、青と緑の錐体視物質の遺伝子発現を制御する鍵分子として、ホメオボックス型転写因子Six6とSix7を特定した。Six6とSix7の両者を欠損させると青と緑の錐体視物質の遺伝子発現が消失すること、また、これら錐体視物質の遺伝子近傍のゲノム領域にSix6とSix7が結合することから、両者が協調的に遺伝子発現を制御することがわかった。さらに、Six6とSix7を欠損させると動物の摂餌能力が著しく低下することから、青色~緑色の波長領域の視覚感度が動物の生存に重要な役割をもつことが示唆された。これらの成果は国際雑誌(Ogawa et al. PNAS 2019)に報告した。
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