研究課題/領域番号 |
15K07145
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
吉野 正巳 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (20175681)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フタホシコオロギ / ケニオン細胞 / 条件刺激 / 無条件刺激 / イオンチャネル / アセチルコリン / オクトパミン / パッチクランプ |
研究実績の概要 |
本研究の目的:フタホシコオロギのキノコ体から酵素処理により単一ケニオン細胞を調整する。この細胞に、条件刺激(CS)であるアセチルコリン(ACh)、無条件刺激(US)であるオクトパミン(OA)及びドーパミン(DA)を微小ピペットから圧力注入で対投与し条件付けを施す。1回条件付け、複数回条件付けを行い、その後の、同定イオンチャネルの性質の変容及びACh応答を継時的に追跡調査し、ケニオン細胞の膜興奮性の変容を実験的に検証する。 本年度は、膜興奮性に重要な、電位依存性Naチャネルを単一チャネルのレベルで2種同定した。また、静止膜電位形成に関わるチャネルの存在を明らかにした。さらに、2本の微小ピペットを単一ケニオン細胞に接近させ、圧力注入で条件刺激のACh、無条件刺激のOAを投与できる実験系の確立に成功した。この実験系を用い、以下の点を明らかにした。(1)単一ケニオン細胞に、AChを持続時間1秒、30秒間隔で5回与えると、Na活性化K(KNa)チャネルの開口確率(Po)が数分にわたり減少した。(2)AChとOAの対刺激(持続1秒、30秒間隔)を5回与えたところ、KNaチャネルのPoが数分間にわたり減少した。(3)ACh(持続1秒)を1回与えるだけで、KNaチャネルの開口確率(Po)が数分にわたり減少した。(4)(3)に見られた現象は、PKG抑制剤KT5823及びNOS抑制剤(L-NAME)により消失した。 以上の結果は、単一細胞に対する、US1秒の提示によっても、NOS/NO/PKGシグナル伝達系が作動し、特定イオンチャネルに対し、数分の持続的な変容をもたらしえる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目指す、「単一細胞に対する古典的条件付け」の実験システム構築に成功し、条件刺激及び無条件刺激を、随意にその条件を変えて、単一細胞に与えることができるようになった。この実験装置を用いて、1回の条件刺激、5回の複数回条件刺激、条件刺激と無条件刺激のペア刺激時の、単一Na活性化Kチャネル,及びその他のイオンチャネルの活動変化を追跡できる見通しがついた。以上の成果から、(2)の評価が妥当と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度研究から、単一Naチャネルの電流記録が可能となった。また静止膜電位形成に関わるイオンチャネルのタイプが特定できた。これらの成果により、単一細胞に対する条件付け後のチャネル変容を追跡する候補チャネルを増やすことが可能となった。今年度の研究はさらに、1回、1秒のアセチルコリン圧力注入で、数分にわたるチャネル変容を示すことを明らかにした。このことから、条件刺激を与えるピペット内アセチルコリン濃度を現在の1mMから減少させ調べる必要が生じた。またオクトパミンとの対刺激では、KNaチャネルの抑制が見られたので、今後オクトパミンだけでなくドーパミンとの対刺激の効果を明らかにする必要がある。
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