研究課題
現在、学習・記憶は神経回路におけるシナプス伝達効率の変容とする捉え方が一般的である。しかしながら、神経回路から切り離された個々の神経細胞が内在的に持つ学習・記憶能力を実証的に検証する試みはこれまでなされていない。本研究は、昆虫の記憶中枢であるキノコ体から解離した単一のケニオン細胞が持つ学習・記憶能力を、人為操作による「古典的条件付け」によって引き出し、単一細胞の持つ学習・記憶能力の分子基盤を明らかにしようとするものである。フタホシコオロギのケニオン細胞は、条件刺激(CS)(アセチルコリン)と無条件刺激(US)(オクトパミン、ドーパミン)を連合させる中心的部位とされている。そこでキノコ体組織から急性単離した単一ケニオン細胞に、個体レベルで既に行われているCS-USの実験パラダイムを適用し、「古典的条件付け」を施すことが可能であるか否かを検討した。アセチルコリン(CS)とオクトパミン(US)を微小ピペットから、単一細胞に微量圧力注入法により投与した。CS及びUSは3秒間与え、CS-USの訓練は1回ないし3回行った。標的タンパク質としてケニオン細胞の膜興奮性に重要な役割を果たしているNa+活性化K+チャネルを候補とした。パッチクランプ法のCell-attached patch clamp モードを適用し、長期に渡り単一チャネル記録を行い、条件付け前と条件付け後のチャネル活動を比較した。この結果、複数回のCSとUSの対刺激後、Na+活性化K+チャネルのアセチルコリンに対する反応性が増加し、CS刺激に対するアセチルコリン受容体の感度上昇、あるいは、Na+活性化K+チャネルのプロテインカイネースGを介した恒常的リン酸化による変容の可能性が示唆された。この原因として、CS及びUS刺激で駆動される細胞内シグナル伝達間のクロストークによる可能性が示唆された。
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Journal of Neurophysiology
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10.1152/jn.00440.2017