研究課題/領域番号 |
15K07148
|
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
井上 武 学習院大学, 理学部, 助教 (40391867)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | プラナリア / 環境応答 / 神経科学 / 活動依存的発達 / 行動 / 神経ペプチド / RNAi |
研究実績の概要 |
動物の脳にみられる高度な情報処理能力は、複雑な神経回路が基盤となり、その形成過程は、遺伝的な情報をもとに画一的に形成されると考えられてきた。しかし近年では、外部環境からの刺激入力が、外部環境に適応した脳の形成や再編成に重要な働きをしていることが示唆されている。しかし、その機構の大部分は未解明である。本研究の目的は、感覚刺激による脳形成過程における可塑性の分子機構を明らかにすることである。 本研究ではまず、プラナリアを複数に切断し、2グループに分けて異なる環境下(通常条件と光遮断)で眼や脳を含む頭部を再生させる実験を行った。その結果、クローナルな集団であるにもかかわらず、光遮断されたグループは、正常に走光性行動を回復できなかったのに対して、光刺激があるグループでは、正常に行動を回復できるという異なる行動パターンを示すことを明らかにした。この結果から、頭部再生過程において、光刺激が、視覚機能の回復に重要な影響をしていることが示唆された。さらに、脳の視覚中枢の神経細胞で発現し、RNAiによって、光遮断下で再生したプラナリアと同じ表現型を示す遺伝子として、新規神経ペプチド遺伝子の同定に成功した。詳細な解析の結果、光刺激による視覚中枢神経細胞の活性化で当該遺伝子の発現が上昇することを発見した。しかし、どのようにしてこの神経ペプチドが光忌避行動の回復に寄与しているのかは未知である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、そもそもプラナリアが、照射されている光の方向をどのようにして認識して、忌避行動をとっているのかの作用機序の解明をおこなった。まず、新規に確立した行動解析およびコンピュータシミュレーションによる解析から、プラナリアは、これまで考えられていたような化学反応速度論を前提とした光の強度(ルクス)だけを認識しているのではなく、眼に対して光の入射角によって光受容する視神経細胞の差も入力左右差として認識していることを明らかにした。 次に、行動解析の実測値およびコンピュータシミュレーションによる予測値を比較することで、プラナリアがどの程度の眼の入力左右差を認識して光忌避行動をとっているのかを算出した。その結果、片眼の最大入力値を1.0と設定した場合において、入力左右差が0.5以上になると、all-or-noneの法則で、入力左右差を小さくする方向に忌避行動をとることを明らかにした。加えて、筆者らが過去に報告した、プラナリアはGABA神経細胞が光認識に必要であるということを参考にして解析した結果、眼の入力左右差はGABA神経によってall-or-noneのデジタル信号に変換されることで行動として出力されていることを突き止めた。 最後に、新規神経ペプチド作動性神経細胞とGABA神経細胞の関係について、多光子顕微鏡および超解像顕微鏡を用いた組織学解析解析をおこなった。その結果、新規神経ペプチド作動性神経細胞とGABA神経細胞は直接相互作用していることが分かった。 以上の結果から、新規神経ペプチドは、眼の入力左右差0.5という閾値を保障する機能があると推察される。
|
今後の研究の推進方策 |
おおむね当初の計画通りに順調に進んでおり、計画通りに次年度も進めていく予定
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた特注制作の行動解析装置の製作遅延により、次年度に持ち越すこととなった。また、本年度は、行動解析およびコンピュータシミュレーションによる解析を主となったため、消耗品費が予定より減少した。
|
次年度使用額の使用計画 |
特注制作の行動解析装置の制作実行およびRNAi等による遺伝子機能解析をおこなう計画である
|