研究課題/領域番号 |
15K07149
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
古川 康雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40209169)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオンチャネル / ペプチド / FMRFamide |
研究実績の概要 |
本研究は、神経系に発現するリガンド作動性チャネルの中で、進化的に特異な位置を占めるペプチド作動性チャネルの構造と機能を解明するために、チャネルの細胞外ドメイン内に存在する空間がチャネルのゲート機構とイオン透過性におよぼす影響を明かにすることを目的としている。 平成27年度は、軟体動物アメフラシのFMRFamide作動性Na+チャネル(AkFaNaC)の細胞外ドメイン内空間の底部に存在する552位、および556位のアスパラギン酸が作る陰性リング構造がチャネル機能におよぼす影響を詳細に検討するために、552位、556位変異体チャネル、および両者の二重変異体チャネルの機能とそのCa2+依存性を詳細に解析した。その結果、552、556位のアスパラギン酸の負電荷は、細胞外Ca2+と相互作用することでチャネル機能を制御する部位となっていることが明らかになった。 平成28年度は、平成27年度の実験研究の成果を論文にまとめるために、実験データを説明出来るチャネルの状態モデルの検証を行った。その結果、10状態のアロステリックモデルにより、これまでの実験結果の多くが説明出来ることがコンピュータシミュレーションにより示されたので、生理実験の結果とシミュレーション実験の結果を合わせて論文を作製し、現在、投稿中である。また、このチャネルの細胞外ドメイン構造を維持するために必要と思われる7ヶ所のSS結合を個別に切断する変異体の作製を行い、その機能解析の予備的な検討を終了した。現在、これら変異体の機能解析を進めており、細胞外ドメイン構造維持に必要なSS結合と、チャネル機能特性の維持に必要なSS結合が区別されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における中心的な実験計画の一つであるアメフラシのペプチド作動性チャネル(AkFaNaC)の552位、556位変異体の機能解析による細胞外ドメイン内空間の最底部に存在する二重の陰性リング構造の機能的役割に関して、平成27年度に得られた研究成果を含めた学術論文の作製をすすめた。この過程で、新たに得られたデータを含めて、これまでに得られているデータを包括的に説明できるチャネルの状態遷移モデルを検討した。コンピューターシミュレーションを用いて、いくつかの妥当なモデルの検証を行った結果、Ca2+結合状態、Ca2+非結合状態、Ca2+阻害状態を含む10状態からなるアロステリックモデルにより、現在得られている多くのデータが上手く説明できることがシミュレーション実験により示された。
当初の実験計画としてあげていた、FaNaCと関連するヒドラのペプチド作動性チャネルのクローニングとマイマイのFaNaCにおける機能解析と変異体作製は、それぞれ予備実験を終了した段階で中断した。これは、本研究課題を計画した段階では考えていなかったAkFaNaCのSS結合変異体の作製実験を先に進めるためである。AkFaNaCの細胞外ドメイン構造の維持は細胞外ドメイン内空間の保持に必須であるが、AkFaNaCおよびその同族体チャネルである上皮性ナトリウムチャネル、酸感受性チャネルでは、機能的な細胞外ドメイン構造を維持するのに必要と思われる7ヶ所のSS結合が完全に保存されている。そこで、それらのSS結合を個別に切断する7種の変異体チャネルの作製を行った。機能発現実験に関しては、まだ予備的な段階であるが、チャネル機能を崩壊させるSS結合変異体と機能が維持されるSS結合変異体が区別できそうである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在投稿中であるアメフラシのペプチド作動性チャネル(AkFaNaC)の552位、556位の変異体チャネルにおける陰性リング構造の機能解析についてまとめた論文を完成させる。次に、AkFaNaCのSS結合変異体チャネルの機能解析を進めて、それらのSS結合と細胞外ドメイン構造の維持、およびチャネル機能特性を定める構造の維持との関連を明らかにする。さらに、予備的検討を進めている細胞内空間に存在するチロシン残基の機能に関する変異体チャネルを用いた研究を進展させ、さらにホモロジーモデリングによるFaNaCの細胞外ドメイン内空間構造の精査から、細胞外ドメイン内空間に側鎖が露出することが示唆されたアミノ酸の変異体作製実験に着手する。
また、上述の論文をまとめていく段階で、FaNaCに構造が類似する脊椎動物の酸感受性チャネル(ASIC)における構造機能相関に関する知見とFaNaCでの研究成果が類似する点や食い違う点が明瞭になってきた。そこで、ラットのASICを用いて、AkFaNaCの552,556位に該当する部位の変異体作製実験などを進めることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請段階では、H28年度経費としてデータ取得装置(132万円)を設備備品費として計上していたが、類似のデータ取得装置を別途取得することが出来たので本研究課題経費での購入を取りやめた。設備備品費にあてるはずであった予算は本研究に必要な消耗品の購入のために使用したが、結果として残額が発生したので、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
「今後の研究の推進方策など」に記載した実験計画を遂行するために必要な実験用試薬などの消耗品を購入する費用として使用する。
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