研究課題/領域番号 |
15K07151
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
鈴木 知彦 高知大学, 自然科学系, 教授 (60145109)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素の局在 / プレニル化 / アルギニンキナーゼ / Paramecium |
研究実績の概要 |
高度な生理機能の維持には,酵素の局在化が重要な役割を果たしている場合がある.この局在化が妨げられると酵素は本来の行き場を失う. 我々は,繊毛虫Tetrahymenaのアルギニンキナーゼ(AK1)が,N末端のミリストイル基を介して繊毛膜に局在していることを明らかにした.そして,繊毛運動においてAK1をキー酵素とする連続的なATP供給機構を提唱した.一方で,繊毛虫Parameciumでは事情が大きく異なる.後者のAKは,N末のミリストイル化シグナル配列を欠く.しかし代わりに,C末端に疎水性のプレニル基を結合させるシグナル配列を持っていた.つまり,両者は全く異なる方法でAK酵素を繊毛膜に局在させている可能性が高い.今回の研究ではParameciumのAKに焦点を当て,繊毛内の局在化メカニズムを明らかにしたい.この多様性の解明は生物学的に非常に興味深い.今年は,Paramecium tetraureliaの4種類のAK(AK1-4)の酵素特性の解明と,AK1とAK3が実際にプレニル化されているかどうかの解明を中心に研究を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.P. tetraureliaの4種類のAK(AK1-4)の酵素特性の解明 ゲノム上では4種類のAK遺伝子が存在するが,それらが実際に細胞内で発現しているかを確かめるために,細胞からmRNAを市販のキットを用いて単離し,その後cDNA化した.このcDNAプールから,AK1-4に特異的なプライマーを用いてcDNAの一部を,PCR増幅した.増幅産物をクローニングし配列を確認したところ,AK4以外は細胞内で発現していることが分かった.次に4種類のAK酵素を大腸菌内で発現させ,その酵素活性を測定した.生体内で発現しているAK1-4は十分な酵素活性をもっていたが, 一方でAK4の酵素活性は極端に低く,AK4が偽遺伝子化しつつあることが示唆された.また, AK3が自身の基質であるアルギニンによって阻害を受ける典型的な「基質阻害」を示すことが判明した.現在,変異体作製を通してそのメカニズムの解明に着手している.
2.P. tetraurelia AK1とAK3は実際にプレニル化されているか 4種類のAKのうち,AK1とAK3はC末端側に明瞭なプレニル化シグナル配列を持つ.この配列は,C末端から4番目のシステインに疎水性プレニル基の一種,ファルネシル基またはゲラニルゲラニル基が結合することを示唆する.実際にゲラニルゲラニル基が結合していることを証明するために,先ず, AK3を無細胞タンパク質合成系(島津)を用いて合成した.この系にはプレニル化するために必要な酵素が含まれている.尚,大腸菌を用いた系では,原核生物がプレニル化酵素を欠くことから,リコンビナント酵素がプレニル化されることはない.合成されたAK3は,予めN末側に付加しておいたStrep Tagを用いて高純度に精製することができた.合成されたAK1とAK3はそれぞれトリプシンで消化し,マススペクトル分析を行った(外注).その結果,C末端のトリプシンペプチドがファルネシル基されていることが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,P. tetraureliaAK3の基質阻害のメカニズムの解明と,4種類のAK(AK1-4)の細胞内局在に焦点を当てて研究を進める. 基質阻害のメカニズム解明については,基質結合近傍のアミノ酸に変異を導入して,基質阻害に関わるアミノ酸残基を特定する. AK1-4の細胞内局在を調べるために,先ず,AK1,AK2, AK3のポリクローナル抗体を作製する.三者のアミノ酸配列の一致率は70%程度であるので,一定程度の交差反応は起こるものの,それらを抗体で区別することは可能であると思われる.一方,AK3とAK4は90%の一致率を示すので区別は難しいが,後者は細胞内で発現していないことが判明している.次に,Paramecium細胞をジブカイン処理や凍結融解することで,(a)繊毛,(b)繊毛を除く細胞膜,(c)細胞質に分画する.それぞれの分画からタンパク質を抽出し,一定量をSDS電気泳動にかけ,上記抗体を用いたウェスタンブロットによりAKの局在を確かめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
大幅な使用残高が出た主な理由は,外注により依頼したペプチドマスフィンガープリント(PMF)分析が予想外に時間がかかり,外注先で再分析等も検討されていることから年度内の支払いが難しくなったことによる.また,それに伴い,無細胞タンパク質合成キット類の購入を遅らせていることにも起因している.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は,昨年度外注した分析(第一分析対象グループ)のPMF分析の支払いが完了し,それに伴い,新たな無細胞タンパク質合成キット等の購入,及びそれにより合成されたタンパク質のPMF分析が予定されているので予算執行が速やかに行われると思われる.
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