研究課題/領域番号 |
15K07153
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
岡田 二郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (10284481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウェービング / チゴガニ / 同調 / 同期 / 求愛行動 |
研究実績の概要 |
干潟で高密度に群棲するチゴガニは、繁殖期の5月から8月にかけてオス個体が鉗脚(ハサミ)を繰り返し振り上げるウェービング行動を盛んに行う。ウェービングは、近隣個体同士でそのリズムが同期することが知られているが、その実証的研究はほとんど行われていない。本研究では、ウェービングの動態と生成メカニズムの解明をめざす。 平成27年度は、実験室内でチゴガニのウェービング行動を観察するための人工干潟システムを整備し、平成28年度はPCにより任意の動作が可能なウェービング模倣ロボットを開発した。カニ1個体とロボット1台の条件下で実験を行った結果、カニはロボットより先行してハサミを振り上げる傾向を示し、チゴガニにおいても先行効果(周囲より早くハサミを振り上げるオスがメスに選択される)の存在が支持された。 平成29年度は、カニ型ロボットを複数用い、より複雑な社会環境下でカニがどのような挙動を示すのか検証した。主要な結果は、カニ1個体の周囲に2台のロボットを設置し、両ロボットの稼働周波数を一定にしつつ、一方のロボットのハサミモデルを振り上げるタイミングを徐々に遅らせる実験において得られた。遅延時間を、同位相(遅延ゼロ)から逆位相(遅延が半周期相当)まで各種設定したところ、カニは両ロボットのいずれにも先行できるタイミングがあれば、その範囲内でハサミを振り上げる傾向にあった。しかし両ロボットが互いに逆位相で稼働し、いずれにも先行できるタイミングが存在しない場合、ウェービングのタイミングは不明瞭なものとなった。これはチゴガニが周囲のライバルに先行できるタイミングを推定しつつ、ウェービングを行っていることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の進捗状況はやや遅延していたが、平成28年度ではロボット作製から実験の実施・解析に至るまで当初計画通り実施された。平成29年度では予定通り複数ロボットを用いた実験は行ったものの、解析まで至ったのは2台の使用に終始し、より自然環境に近い、複雑な条件を想定した最大4台使用の実験は、記録のみで解析はできなかった。ただしロボット2台を用いた実験は、単純であるがゆえにウェービングの個体間相互作用の基本原理を探るためにはむしろ好条件であり、極めて興味深い結果が得られた。 多くの動物の骨格筋では、実際の体運動に先行する準備電位が発生するが、これを測定することで、行動解析では検知できない個体の内的状態をモニターできると期待される。平成29年度は、ハサミの運動筋に微小ワイヤー電極を埋め込み、ウェービングに関連する準備電位の記録を試みたが、これまでウェービング自体を示した個体がなく、未だ解析には至っていない。ただし、カニは電極埋め込み手術から4,5日経過後も特に目立つ身体的異常も認められず生存しており、ウェービング消失は、何らかのストレスがウェービング行動の発現を抑制したためと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる平成30年度は、平成29年度までの実験・解析を繰り返し実施することを基本とする。しかし平成29年度までに未着手の2種類の実験は早急に開始し、方法論の確立を優先課題として進める。具体案を以下に示す。 カニ1個体を取り囲むように配置した最大4台のロボットを、周波数とタイミングを変化させつつ稼働させ、これに対しカニがどのような挙動を示すか解析する。すなわち、より複雑な社会的条件下においても、カニはいずれのロボットの動作にも先行するタイミングでハサミを振り上げることが可能かどうか検証する。平成29年度まで行ってきたカニ1個体に対して1台ないし2台のロボットを用いる実験についてもさらに例数を重ね、個体間相互作用の基本ルールの解明をめざす。 ハサミ運動に関わる骨格筋に微小ワイヤー電極を埋め込み、ウェービング中の動物から筋電位測定を行う。平成29年度の経験から、施術によるストレス軽減策として、①外径がより細い被覆ワイヤーを用いる、②動物の体旋回による電極ワイヤーのねじれを補償するためのスリップリング(回転体との電気信号を中継するためのコネクター)を利用する、③施術後の実験は施術前と同じ容器に戻して行うことで環境変化を最小限に留める、などを試みる。方法論の確立後は、周囲に配置したロボットの稼働がカニのハサミ運動筋の活動にどのように反映されるか、実験と解析を可能な限り行う。 さらに、ウェービング活性と環境条件との関係について以下の追加実験を行う。実験室の環境条件は野外と比較して安定しているが、カニのウェービング活性は、連日変動する。この変動要因についてはまったく不明であるため、平成30年度は気圧、気温、湿度、天気等の環境条件を連日記録し、ウェービング活性との相関について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初購入予定だった生体アンプを既存の機材で代用できたこと、当初予定していた国内学会1件に不参加だったことにより、物品費と旅費がそれぞれ当初計画より少なかったため。 (使用計画)筋電位測定用の電極素材、ロボット製作に係るメカトロニクス系部品、行動データ保存用ハードディスク・メディア、試薬など少額の物品、および国内学会参加旅費に充当予定である。
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