研究課題/領域番号 |
15K07155
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
深掘 良二 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (40457784)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 線条体 / オペラント条件付け / 弁別学習 |
研究実績の概要 |
行動選択は幅広い種で観察される重要な行動様式である。応募者らは刺激に合わせて行動を選択する仕組みに関して研究を行ってきた(Fukabori, 2012; Nishizawa,2012)。この行動選択の仕組みには脳内の線条体とよばれる部位が重要な働きをしている。線条体は主に大脳皮質と視床と呼ばれる部位から情報が伝達され、処理した結果を淡蒼球、脚内核、黒質網様部などの脳部位に出力している。本研究では視床から線条体に伝達される情報に焦点を当てて研究を進めている。 平成29年度では頭部拘束型オペラント実験装置での研究と並行して、自由行動下での実験を検討した。これは昨年度報告した通り、動物のタスク遂行に困難さが生じたためである。そこで自由行動下における行動選択において視床-線条体路の役割を先に調べることにした。Med Associates社製のオペラント実験装置を用いて、当初予定していた行動選択のパラダイムを改変し、実験を進めた。 視床髄板内核の一つ外側中心核から線条体への投射を経路選択的に除去した時、学習した行動選択の正確さが障害されることが分かった。また、行動選択を行うための実行時間は遅延されることが分かった。さらに、この経路は行動選択のルールが変更になったときにも重要であることが分かった。外側中心核から線条体への投射経路が除去された動物では、今まで報酬をもらえていたレバーが他のレバーに変更されたときに、その行動を変えるためにより多くのトレーニングが必要であった。刺激に応じた行動選択から、場所に応じた行動選択にルールが変化した場合でも、行動を変えるためにより多くのトレーニングを必要とした。 平成29年度では自由行動下での行動選択実験を通して視床から線条体へのインフォメーションフローに関連する脳機能を明らかにした。今後、伝達される情報の質について研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭部拘束型オペラント実験装置での実験の効率の悪さを補うために、Med Associates社製のオペラント実験装置を用いて自由行動下での行動選択実験を行った。この実験装置は線条体のドーパミンD1受容体をもつ中型有棘細胞の機能を調べる研究(Fukabori, 2012)において使用した実績があり、より短期間で研究が行えることがわかっていた。本研究の目的である伝達される情報の質などはある程度調べることができるため、まずはこちらに切り替えて実験を進めた。 視床髄板内核の一つ外側中心核から線条体への投射を経路選択的に除去した。これらの実験系は研究代表者が所属する研究室で開発された方法で、逆行性輸送をおこなう遺伝子導入ベクターとイムノトキシン細胞標的法を用いて行った。行動選択のパラダイムはほぼ同じであるが、視覚刺激を用いて選択するレバーを示すようになっている。行動選択が正しく行えるようになった動物の視床線条体路を除去した結果、視覚刺激に応じて正しいレバーを選択することが障害された。この障害はトレーニングを続けることによってなくなった。また、行動選択までの反応時間が遅延することが分かった。この障害はトレーニングを続けても回復することはなかった。動物に特定の場所でレバーを押すと報酬をもらえる学習をさせた後、報酬をもらえる場所を異なるところに移した場合、視床線条体路が除去された動物は行動選択を変えるまでより多くのトレーニングを必要とした。また、刺激に応じた行動選択から、場所に応じた行動選択にルールが変化するような学習についても同様の障害が確認できた。これらのことから視床の外側中心核から線条体へのインフォメーションフローは行動選択の正確さ、素早さ、柔軟性に関与していることが分かった。これらの結果は平成29年度中に公表できた(Kato, 2018、共著)。
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今後の研究の推進方策 |
自由行動下での行動選択実験で得られた成果をもとに、情報の空間的、時間的な要素を調べるために頭部拘束型オペラント実験装置での実験を継続していく。今まで実験の効率を上げるために様々な改良を試みてきたが、それがすべて改善につながったわけではなかった。逆に装置のいくつかの変更は動物にとっては行動を制限するものであった。 そこで本年度では実験の効率を上げるために、装置を初期の状態に戻し、動物にストレスをかけないような環境を整える。また報酬の提示方法を単純にするために、装置の標準であるレバーと報酬出口が一体化した構造を改め、報酬出口を独立させ、どの行動選択をしても報酬出口は変わらないようにする。行動選択方法も、偶発的な行動選択を避けるためにレバーの押し方を変更したが、この仕様も元に戻し、より単純に行動選択ができるようにする。 これらの変更は行動選択をするという点で、今まで得られたデータと同様に考えることができる。特に装置の変更に関しては、大きな影響はないと推察できる。ただ、レバーの押し方の変更は情報の空間的、時間的な要素の解析にあたって障害になる可能性がある。この変更をした期間のレバーに関するデータは十分に注意をして解析を試みる。行動選択をするために提示する刺激音に関する情報などは前回までの課題と同様に変化がないため、研究期間中に取得したデータをまとめて解析を行っていく。 平成30年度が本研究計画の最終年度である。自由行動下での行動選択の研究によってある程度の成果が得られた。本年度では頭部拘束型オペラント実験装置で行った実験データをまとめていき、さらなる成果を目指して研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
記録データをより効率的に解析するためのソフトウェアの購入を計画していたが、金額が確定できず、納期も年度末に間に合わないために平成30年度に購入することにした。
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