研究課題/領域番号 |
15K07164
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
吉沢 直子 (須賀田直子) 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主席研究員 (30344071)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Rif1 / Zscan4 / 2細胞期 / H3K27Ac |
研究実績の概要 |
本年度はマウスES細胞においてRif1の発現が低下すると、初期胚2細胞期の遺伝子(2CG)の発現が著しく脱抑制されるメカニズムに重点を置き解析を行った。 1.2CGの脱抑制に関与する因子の解析: 2CGのゲノム領域はRif1ノックダウンによりDNAが脱メチル化されていることを昨年明らかにしたが、DNA脱メチル化酵素であるTet2を発現抑制しても2CGの発現は減少しなかったことからTet2は関与しないことがわかった。また、ES 細胞でZscan4遺伝子の発現を制御すると報告されているTbx3も2CGの脱抑制には影響しなかった。さらに阻害剤共存実験ではMAPキナーゼとGSK3キナーゼ (2i) が2CGの脱抑制を正に制御し、2i非存在下ではPI3キナーゼが正に制御することがわかった。 2.2CG脱抑制に関与するクロマチン構造の解析:2CGクラスター遺伝子領域のモデルとしてZscan4遺伝子領域を標的としたヒストン修飾の変化をクロマチン免疫沈降(ChIP)により解析した。Rif1ノックダウンによりZscan4領域のヒストンH3のK4のトリメチル化、K9K14のアセチル化には大きな変化はなかった。また、サイレントマークであるH3K9、H3K27のトリメチル化もほとんど変動しなかった。一方、H3K27のアセチル化はZscan4遺伝子領域の広い範囲で著しく増加し、H3K4のモノメチル化も2倍程度に増加した。以上のことからZscan4領域は、Rif1のノックダウンにより活性化されたエンハンサー特有のヒストン修飾を持つクロマチンに変化していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rif1を誘導的にノックアウトできるES細胞を樹立したことにより、2CGの脱抑制に必要な因子の解析を効率よく行うことができた。特に2CGの発現はsmall RNAの存在により抑制されることが最近の実験結果から判明し、siRNAの代わりにこのノックアウト細胞を用いることで他の因子による2CGの発現への影響を正確に評価できるようになった。この細胞は来年度計画しているATAC-seqの解析にも利用できる。 ChIPアッセイでは9つの相同遺伝子が重複しているZscan4遺伝子クラスター領域を標的とするプライマーセットの設計が困難であったが最終的に成功し、この領域のヒストン修飾を詳細に調べることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.Rif1発現抑制によるクロマチン構造全体への影響:これまでに、MNaseによりヌクレオソーム単位で消化したゲノムの電気泳動による解析を行っており、Rif1発現抑制によるグローバルなクロマチン構造変化は見られていない。しかしサザンブロット解析では2CGなど一部の領域ではクロマチンがオープンになっていることが示唆された。トランスポゼースを利用したATAC-seqを行い、網羅的にRif1を発現抑制した細胞でのクロマチン構造変化を解析して変化の大きな領域を同定する。 2.Rif1による多能性の向上方法の開発:Rif1のノックダウン及び恒常的な発現維持はES細胞から三胚様への分化過程に影響する。このことから、Rif1の発現調節により効率よく多能性幹細胞を創出するプロトコール、または細胞を特定の方法に分化誘導する方法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたクロマチン構造のゲノムワイド解析が来年度に持ち越しとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
ATAC-seqに必要なサンプルの調製、解析用ライブラリー作成試薬の購入、次世代シーケンサー解析委託費用として使用する。
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