研究実績の概要 |
マウスES細胞では、通常初期胚2細胞期でのみ特異的に発現する遺伝子群(2CG)が一過性に脱抑制される、いわゆる2細胞期胚様状態の集団がごく少数存在することが知られる(Falcoら, 2007)。本年度は、Rif1の2CG抑制機構の解明を目的とし、以下の知見を得た。 1. Zscan4遺伝子クラスターのクロマチン構造解析:前年度作製したmRif1 flox/flox CreERT2マウスES細胞を用いて、2CGの一つであるZscan4遺伝子近傍のヒストン修飾変化をChIP-qPCRにて解析した。その結果、mRif1のノックアウトによるZscan4の脱抑制に伴いH3K27アセチル化が著しく増加することを見出した。また、転写の急激な上昇にもかかわらず活性化ヒストンマークやH3K4me1などの他のエンハンサーマークはなかった。H3K27Acのみからなるこの特殊なエンハンサー様構造は少なくとも遺伝子上流10kbから下流2 kbの広範囲に広がり、おそらく、9コピーのファミリー遺伝子を含むZscan4遺伝子クラスター領域を広範囲にカバーしていると考えられる。 2. Rif1の欠失変異体の解析:Rif1分子の機能ドメイン解析を目的とし、12種の欠失変異体のコンストラクトを作製した。核に局在する8変異体のうち5つについて安定発現株をES細胞で樹立し、2CG発現抑制を相補できるかを調べた。まず野生型(2418 aa)を発現する株では内在性のRif1を欠失させた時にZscan4, Usp17lなどの2CGの発現を抑制できた。一方、Heat repeatのみのN1051 aa, C末端保存領域とIDR(天然変性部位)のC末端側1/5の領域をもつC552 aaはどちらも相補しなかった。また、Heat repeatのみを欠くDelta N984 aaでは弱く相補した。このことからIDR領域のN末端側が2CGの抑制に関与する可能性が示唆された。
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