本研究では、SOX3遺伝子のオス決定とメス決定の使い分けの分子機構を解明する目的でSOX3遺伝子の発現調節機構に注目して調べた。平成29年度は次の結果を得た。 (1)XZ個体の性について: 昨年度に加え、XZ個体(XX x ZZを4組、戻し交雑を7組)の生殖腺性分化の確認を行った。雑種交雑ではXZの多くがメスに分化する一方、戻し交雑ではXZが雌雄半々に分化することがわかった。(2)XZにおけるSOX3遺伝子のメチル化: XZ成体の生殖腺と脳におけるSOX3遺伝子の発現をQ-PCR法で調べたところ、精巣で低く、卵巣及び脳で高い発現が観察された。特に、高発現を示す脳と卵巣ではZアリルの発現がXアリルより高いことがわかった。Z-SOX3遺伝子の上流領域にはSOX3結合配列が見つかり、その近傍に、X-SOX3遺伝子には存在しない12塩基の特異的配列が見つかった。このZ特異的配列の内部に存在するCGダイマーのメチル化をバイサルファイト法で調べた結果、Zアリルが高発現するXZ個体ではメチル化の比率が高い傾向が示された。この結果は、Z特異的配列による負の発現調節を示唆する。以上から、XZ個体におけるSOX3遺伝子の発現差にはZアリルの発現が鍵であり、Z特異的配列のメチル化を介したオートレギュレーションの差が個体間の発現差を生じ、これが雌雄決定に関与している可能性が示された。 期間全体の研究を通じて、SOX3の発現パターンは雌で高いこと、また、XZ雌ではZ- SOX3が発現誘導されていることから、SOX3はメス決定が主な機能であり、オス決定ではその抑制が示唆された。発現誘導には自身によるオート制御が関与し、通常Z-SOX3ではそれが抑制されていること、抑制解除にはDNAのメチル化が関与することがXZの解析から推測された。ただし、染色体レベルでのDNAのメチル化の違いは検出できなかった。
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