研究課題
代表的な出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeではミトコンドリア核様体(mt核様体)を構成する主要なDNA結合タンパク質として20 kDa Abf2pが同定され、ミトコンドリアゲノムの維持に必要なタンパク質であることが明らかになっている。Abf2p欠損株はエチジウムブロミド(EB)処理に対して高い感受性があり、EB処理により野生株よりも容易にmtDNAを失い呼吸欠損株になる。そこで、本研究では、分裂酵母のCmb1がAbf2pの機能をどのように相補するかを明らかにするために、Abf2p欠損酵母でCmb1を発現させて、EB感受性を調べた。その結果、Cmb1の発現によって、Abf2p欠損株はEB感受性が野生株と同じレベルに回復し、その効果はAbf2p自身を発現させるよりも高いことが分かった。また、EB処理によるmt核様体の消失もCmb1により抑制されることがわかった。この結果から、EB処理に対して、Cmb1は十分にAbf2pの機能を相補できることが初めて明らかになった。次に、Cmb1欠損によって分裂酵母にどのような障害がもたらされるかを解析した。Cmb1を欠損した酵母は、30℃での培養でミトコンドリアおよびmt核様体に目立った形態的変化が見られない。しかし、培養温度を37℃に上げると、mt核様体の凝集が野生株よりも顕著におこる。そこで、30℃と37℃で培養した野生株とCmb1欠損株の酵母の呼吸活性を測定したが、Cmb1欠損によりmt核様体が凝集した酵母においても、呼吸活性は野生株と同等のレベルを維持していることが分かった。また、Cmb1欠損におけるシスプラチン感受性、EB感受性をスポットアッセイで調べた結果、意外にもCmb1欠損による顕著な感受性の増加はみられないことが判明した。
3: やや遅れている
平成27年度当初の計画どおり、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのミトコンドリアDNA結合タンパク質Abf2p欠損による障害を、分裂酵母Cmb1が相補できるかについて調べることができた。また、分裂酵母Cmb1欠損株が示すミトコンドリア核様体形態の異常、薬剤感受性について明らかにした。一方、Cmb1欠損によるmtDNAコピー数の変動の解析、Cmb1がミトコンドリア以外にも局在する可能性の検証はまだ進行中であり、平成27年度当初の計画よりはやや遅れている。
平成28年度では、当初の実験計画であるCmb1欠損によりmtDNAコピー数がどのように影響を受けるかについて解析し、Cmb1の細胞内局在部位についても検証を進める。また、Cmb1がミトコンドリアゲノムの遺伝子発現を制御している可能性を明らかにするために、Cmb1欠損によるミトコンドリア遺伝子の転写活性について解析したい。
当初の計画で購入予定であった恒温振とう培養機(570,000円)と振とう恒温水槽(289,000円)については、平成27年度に現有の培養装置の故障がなく実験が可能であったため、新規での購入はしないことにした。また、平成27年度は他の外部資金の使用も可能であったため、次年度使用額が生じた。
次年度使用額は、薬品などの物品費、旅費、その他の経費として使用する予定である。
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Cytologia
巻: 81 ページ: 47-52
10.1508/cytologia.81.47
巻: 81 ページ: 69-76
10.1508/cytologia.81.69
Gene
巻: 559 ページ: 177-183
10.1016/j.gene.2015.01.060