分裂酵母S. pombeで、我々が初めて同定したミトコンドリアDNA(mtDNA)結合タンパク質Cmb1と、出芽酵母S. cerevisiaeのミトコンドリア核様体(mt核様体)を構成する主要なDNA結合タンパク質Abf2pを比較することで、mtDNA結合タンパク質の進化を考察した。 Abf2pとCmb1では、アミノ酸配列の保存性は非常に低く、Abf2pはDNA結合ドメインであるHMG boxを2つ保持するが、Cmb1はC末端側に1つだけ保持するという違いがある。Abf2p欠損株が示すmtDNAの不安定性を、Cmb1の高発現により相補できたことから、両者の機能に共通性があることが明らかになった。一方、ABF2プロモーターを用いて1コピーのCmb1遺伝子を発現させると、Abf2pの機能を相補できないことなどから、Abf2pとCmb1にはmtDNAの安定性に及ぼす作用に違いがあることが明らかになった。また、分裂酵母の37℃での高温培養において、Cmb1の欠損がmt核様体の凝集を引き起こすが、Cmb1の有無が呼吸活性自体には影響を及ぼさないことが明らかになった。これらの性質はS. cerevisiaeのAbf2p欠損株の性質とは異なっていた。 Schizosaccharomyces属酵母4種のうちの1種S. japonicusからmt核様体を単離した。そして、mt核様体からHMG boxを2つ保持するmtDNA結合タンパク質(Abf2pホモログ)を新規に同定した。この結果から、分裂酵母の種によって、Abf2pホモログがもつHMG box の数が異なることが明らかになった。本研究から、酵母のmtDNA結合タンパク質であるAbf2pホモログにはアミノ酸配列の多様性のみならず、mtDNAの安定性に対する作用にも違いがみられることが明らかとなった。
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