研究課題/領域番号 |
15K07169
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
熊澤 慶伯 名古屋市立大学, 大学院システム自然科学研究科, 教授 (60221941)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | カメ / ミトコンドリア遺伝子 / cDNA / RNA-Seq / 系統解析 / 分子進化速度 |
研究実績の概要 |
脊椎動物から様々な核遺伝子やミトコンドリア遺伝子が配列決定され、分子系統解析に用いられてきたが、各々の遺伝子の分子進化特性(優れた系統的特性を発揮する時間スケールや分子進化速度に影響を与える要因など)はまだ十分に解明されていない。本研究では、様々なカメ類からミトコンドリア遺伝子と核遺伝子(そのコード領域)の塩基配列を決定し、カメ類のミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の分子進化特性の比較を行うことを目的とする。平成27年度では、研究に使用するカメ類サンプルの収集を行うとともに、10種のカメ類からミトコンドリアDNA全塩基配列の決定を行った。それぞれの種の組織から抽出した全DNAを鋳型として、ミトコンドリアDNA全周を増幅するロングPCRを行った。これを精製して超音波破砕することで得られたDNA断片について、Kumazawa et al. (2014) BMC Genomics 15: 930の手順に従って、次世代シーケンスによる網羅的な塩基配列決定を行った。得られたreadをマルチプレックス用タグ配列に基づいて種ごとに仕分けし、アセンブリーを行った。繰り返し配列を含む主要非コード領域においては、それをまたぐ増幅を行い塩基配列を決定した。こうして得られたミトコンドリアDNA全塩基配列において、遺伝子のアノテーションを行うとともに、遺伝子配置や塩基組成、さらにはカメ類ミトコンドリアDNA特異的な翻訳フレームシフトの存在などを調べた。その結果、新しい翻訳フレームシフトを発見したが、その分子進化様式については、次年度以降さらに多くの種を含めた解析を行うつもりである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、様々なカメ類の種を用いて、ミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の塩基配列を決定し、それらの分子進化特性を比較する。そのためには、まず研究に用いるカメ類のサンプル収集を行う必要がある。本年度は、他の研究者や動物業者などを通じてカメ類サンプルの収集を行う一方で、海外(インドネシアやタイなど)の共同研究者を通じてサンプル入手を行う可能性も検討した。その結果、ミトコンドリアDNA全塩基配列の決定に用いる種については、ほぼ予定の分類群をカバーする標本を集められる目処が付いた。ミトコンドリアDNA全塩基配列を決定する実験は、10数種のカメ類サンプルを用いて実施した。そのうち10種でミトコンドリアDNA全塩基配列を決定することができた(一部の種では繰り返し構造の部分で配列決定が困難であり、ほぼ全長配列となった)。一方、核コード遺伝子のcDNA塩基配列を取得する実験については、別の分類群を用いて、実験系を整備することができた。このように実験条件の整備は順調に行えており、次年度以降も予定した実験を継続的に行える状態にあると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに収集したサンプルと整備した実験系を用いて、さらに多くのカメ類の種からミトコンドリアDNA全塩基配列及び核遺伝子のcDNA塩基配列の決定を行いたい。当初の実験計画を大きく変更する必要はないと考えるが、次世代シーケンスの普及に伴い、他者によりRNA-Seq解析をカメ類において実施した結果が、データベース等で公開された例も散見されるようになった。こうした外部データについても、信頼に足るものであれば積極的に本研究で利用可能と考えられる。データベースの動向に留意しながら、自身では他者によりデータ登録がない種を補完するなどの戦略も取り入れたいと考える。次年度は配列データの取得を中心に研究を行い、遺伝子の分子進化特性の解析は、それ以降ある程度データが集積してから行うつもりである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度途中に予期せぬ低温フリーザーの故障が起き、翌年度以降の研究経費の前払い請求をして、代替品を購入した。その後研究を進める過程で、消耗品の購入費を予定より抑えることができたため、若干の次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は16万円余りであるが、これは次世代シーケンスのランキット1個分の購入経費に相当する。次年度に予定する次世代シーケンス実験の経費に充当したい。
|