研究実績の概要 |
本年度は2種のカメ類からミトゲノム全塩基配列を決定し、既存の種を含めて、ミトゲノムコードのタンパク質遺伝子における翻訳フレームシフトの進化様式を詳しく分析した。その結果、N3-174フレームシフトは、複数のカメ系統で最低5回独立に進化した一方で、N3-135, N4L-99, N4L-234, N4L-262, Cytb-493フレームシフトは特定のカメ系統で1回ずつ獲得されたことが示唆された。フレームシフト部位の共通配列としてCTBAGが見出され、CTBAの4塩基をロイシンに翻訳する特徴が見られた。ただしCytb-493フレームシフトだけはGGGAの4塩基をグリシンに翻訳するものであった。このためCytb-493以外の翻訳フレームシフトは共通の分子メカニズムに基づくと思われた。 7種のカメ類の肝臓由来RNA-Seqデータをアセンブリし、アミノ酸配列へ翻訳した後、Orthofinderを用いて単一コピー遺伝子に由来する114個のオーソログデータセットを取得した。また同一タクソンに関するミトコンドリアタンパク質遺伝子のアミノ酸配列データセットを取得し、配列長200AA以上のものについて系統的有用度(phylogenetic informativeness)を比較した。その結果、殆どの核遺伝子が80Ma以前(平均127Ma)に系統的有用度の極大値を持つのに対し、ミトコンドリア遺伝子は20-70Ma(平均51Ma)に極大値を持っていた。この結果は、ミトゲノムの高い分子進化速度と調和的であり、ミトコンドリア遺伝子は、アミノ酸配列を用いて系統解析を行っても、70Maを超える深い分岐の系統関係や分岐年代の推定には適さないことを示している。本研究で得た核遺伝子データセットは、RNA-Seqを通してカメ類の系統解析を行う新たなアプローチの可能性を拡げるものである。
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