研究課題/領域番号 |
15K07172
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
井上 潤 沖縄科学技術大学院大学, マリンゲノミックスユニット, 研究員 (10596779)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 比較ゲノム / 分子系統解析 / シンテニー |
研究実績の概要 |
本研究課題は,ゲノム進化研究の基盤をなすオーソロガスな遺伝子と染色体領域を脊椎動物のゲノム全体から選定する解析パイプラインを構築することを目的とした.研究計画は以下の手順であった:(1) 若手研究Bで作成した解析パイプラインを拡張し下位条鰭魚類数種から解読したデータを解析することで,系統解析パイプラインの強化を図る,(2) 得られた結果を利用して分布解析パイプラインを作成する,(3) 連携研究者と協力して数理解析を行い,解析パイプラインの精度を評価する.本研究課題は,種の系統樹を用いて確実に推定されたオーソログ情報を基盤とする,言わば進化学の基礎的概念を軸とした制度の高い解析を行うことで,混乱しているゲノム進化研究の指針となるものである. 前年度までで,分布解析をパイプラインに組み込み,脊索形成に重要な Brachyury 遺伝子を解析して,Biology Letter 誌に発表した.この時点で,脊椎動物以外で発表された後口動物ゲノムはいまだ断片化が激しく,全遺伝子レベルでの分布解析が困難であることが明確になった. そこで本年度は,脊椎動物の多様化を可能にした筋肉遺伝子に注目し,解析パイプラインを用いて,新口動物の系統間でゲノム比較解析を行なった.その結果,骨格筋を構成する 32 の遺伝子のうち,16 遺伝子について信頼性の高い遺伝子系統樹を推定した.得られた結果を総合的に解釈すると,脊椎動物では,アクチンとトロポニン C を新たに利用することですばやい動きを可能にしていることが明らかになった.この結果を Molecular Biology Evolution 誌で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 研究の進捗状況:当初の目的は,前年度までに解読した下位条鰭魚類数種のトランスクリプトームデータを解析し,解析パイプラインの統合を目指すことであった.実際に,系統解析パイプラインを新口動物の主要系統間の解析に適用することで,分布解析の要素を取り込むだけでなく,脊椎動物の進化で重要な役割を担うとされる遺伝子に着目して,より密度の高い解析を行うことができた.その一方で,予定していた下位条鰭魚類数種のトランスクリプトーム解読は,国際 DNA バンクで公開されているデータで十分な解析が可能であったため,行わなかった. 2. 成果の進捗状況:解析対象を新口動物まで広げたため,進化や発生の研究分野でより重要度の高い遺伝子に着目した解析が可能になった.その結果,予定よりも早く得られた結果を研究論文として発表することができた.
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今後の研究の推進方策 |
1. 本研究課題の今後の推進方策:当初の主な目的である分布解析への拡大で,一応の成果を得た.そこで次の課題として,解析パイプラインを web アプリケーションとして公開することを目指す. 2. 研究計画の変更:研究対象を新口動物まで広げた.これにより,脊椎動物内部だけでなく,脊椎動物の外側に分岐する動物のゲノムを解析することで,より脊椎動物のゲノム特性が明確になる. 3. 課題と対応策:脊椎動物に加えてウニやナメクジウオ,ホヤ,を含む新口動物では,ヒトやメダカなどの実験動物に比べて公開されているゲノムデータの精度が低く断片化が見られる.このため当面の目的を,脊索動物の解析に合わせた解析パイプラインの作成にしぼり,大規模シンテニー解析を小規模シンテニー解析へと切り替えることで対応する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 予定していた下位条鰭魚類数種のトランスクリプトームデータ解読を延期したことに加え,解析パイプラインの web アプリケーション化が可能になったため. (使用計画) 解析パイプラインのさらなる改変により,web アプリケーションとしての公開を目標とした.このため,解析に必要な情報を得るための書籍購入や,公開サーバー設置補助への支出を考えている.
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備考 |
骨格筋の起源 http://www.geocities.jp/ancientfishtree/muscleJI.html
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