研究実績の概要 |
近年ゲノムデータが進化研究の題材として注目されているが,データが膨大かつ煩雑なため誤ったマーカー遺伝子を用いた解析が混乱を招いている.そこで,本課題では,ゲノム進化研究の基盤をなすオーソロガスな (種間で対応した) 遺伝子と染色体領域を脊椎動物のゲノム全体から選定する解析パイプライン (ソフトウェアの集合体) を構築する,ことを目的とした.当初は以下の研究手順を提案した: [トランスクリプトームデータの解読] 下位条鰭類を対象としてトランスクリプトームデータを解読する.[分布解析パイプラインの開発] ゲノムデータを系統解析パイプラインで解析し,得られたオーソロガス遺伝子の情報に基づいて染色体上に遺伝子をマッピングする.[数理モデルの作成] 脊椎動物ゲノム進化に関する数理モデルを作成する. しかし,所属研究室を変更したため,解析対象を脊椎動物から左右相称動物全般にまで広げることになった.これに伴い,解析対象が広くなったこと,および,利用するゲノムデータの質が低くなったこと,が主な原因で,いくつかの研究手順の変更を迫られ,解析パイプラインの開発が急務となった.そこで,最終年度は,一つの遺伝子に特化した解析を行う web tool,ORTHOSCOPE を開発し,論文として公開した (Inoue and Satoh, 2019).ORTHOSCOPE を用いて,(1) ホヤ類に特化した G タンパク質共役受容体が,他の動物系統にない特殊なものであること (Shiraishi et al. 2019),(2) 淡水域に生息する真骨魚類で,脂肪酸不飽和化酵素 2 (Fads2) 遺伝子のコピー数が増加していること (Ishikawa et al. in press),を示し,共同研究者の論文作成に参加した.
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