研究課題/領域番号 |
15K07174
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
高橋 弘樹 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 助教 (40283585)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脊索動物 / 発生進化 / 脊索 / ホヤ / ナメクジウオ |
研究実績の概要 |
脊索動物の進化は繊毛を使って遊泳する幼生から、筋肉を備えた尾を使って遊泳するオタマジャクシ型の幼生の出現に起因する。「脊索」は脊椎動物体制における中軸器官であると同時に、脊索動物を特徴付ける最も重要な形質である。したがって、脊索形成の分子メカニズムの解明は脊椎動物体制構築の解明につながると同時に、脊索動物進化のメカニズムの理解に直結する。脊索形成にはT-box転写因子であるBrachyuryが重要な役割を果たす。しかし、Brachyuryの役割は脊索形成に特化したものではなく、もともと原腸形成に関連した役割を持っていたものが、脊索動物進化の過程で脊索形成に関わったものと考えられる。そこで、Brachyury遺伝子が担う脊索形成の機能を獲得する進化プロセスを明らかにすることから、脊索動物門誕生の進化発生学的基盤の解明に迫ることを目指している。 1. 脊索形成獲得進化の分子的基盤 最も祖先的な脊索動物の形質を残す頭索動物ナメクジウオの脊索細胞を顕微鏡下で単離してRNA-Seq解析に成功した。その結果、興味深いことにナメクジウオ成体の脊索細胞にBrachyury遺伝子が発現していることが初めて明らかになり、特徴的な筋肉性の脊索形質であることが示唆された。さらに、筋肉細胞と神経細胞の単離解析の結果を統合して解析を進めている。 2. 原腸形成と脊索形成を制御するBrachyury遺伝子ネットワーク進化の解析 頭索動物ナメクジウオと尾索動物ホヤのBrachyury発現制御機構の解析を進めている。さらにナメクジウオのBrachyuryゲノム領域には原口、筋肉、脊索での発現を制御する領域がそれぞれ存在することが明らかになってきた。さらに、ナメクジウオゲノム比較情報をもとに解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脊索動物門誕生の進化プロセスを解明する際に鍵となる祖先的な動物群である頭索動物ナメクジウオの成体を用いたRNA-Seq解析に成功した。その結果、興味深いことにこれまで発生初期の原腸胚期から尾芽胚期の形態形成期に脊索細胞での発現が報告されていたBrachyury遺伝子がナメクジウオにおいては成体の脊索細胞にも発現していることが初めて示された。また、ナメクジウオに特徴的な筋肉性の脊索形質の分子的な基盤を提示することができた。 一方、尾索動物ホヤのBrachyury発現制御機構の解析に加えて、ナメクジウオのBrachyury発現制御機構の解析をホヤ胚を用いることで進めることが可能となり、原口、筋肉、脊索での発現を制御する領域がそれぞれ存在することが明らかになってきている。さらに発現制御領域を限定するためのコンストラクトを作成して解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、頭索動物ナメクジウオと尾索動物ホヤを用いた解析を中心に進めてきたが、最終年度はさらに脊索を持たない近縁の動物群である半索動物ギボシムシと棘皮動物ヒトデを用いた解析を推進していく。そのために技術的に困難を共なうギボシムシ卵への遺伝子導入法を確立することを目指す。その上で特にこれまでの解析によって明らかになった、ナメクジウオのBrachyury発現制御領域のコンストラクトをギボシムシ、ヒトデに導入することにより、Brachyury発現調節の進化の道筋を解き明かすことを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた物品費のシークエンス関連試薬の支出が抑えられたために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進展に応じて支出予定の物品費としてシークエンス関連試薬として使用するとともに、最終年度には論文発表と学会発表に支出する予定である。
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