脊索動物の進化は繊毛を使って遊泳する幼生から、筋肉を備えた尾を使って遊泳するオタマジャクシ型の幼生の出現に起因する。「脊索」は脊椎動物体制における中軸器官であると同時に、脊索動物を特徴付ける最も重要な形質である。したがって、脊索形成の分子メカニズムの解明は脊椎動物体制構築の解明につながると同時に、脊索動物進化のメカニズムの理解に直結する。脊索形成にはT-box転写因子であるBrachyuryが重要な役割を果たす。しかし、Brachyuryの役割は脊索形成に特化したものではなくもともと原腸形成に関連した役割を持っていたものが、脊索動物進化の過程で脊索形成に関わったものと考えられる。そこで、Brachyury遺伝子が担う脊索形成の機能を獲得する進化プロセスを明らかにすることから、脊索動物門誕生の進化発生学的基盤の解明に迫ることを目指している。 1. 脊索形成獲得進化の分子的基盤 最も祖先的な脊索動物の形質を残す頭索動物ナメクジウオの脊索細胞を顕微鏡下で単離してRNA-Seq解析に成功した。その結果、興味深いことにナメクジウオ成体の脊索細胞にBrachyury遺伝子が発現していることが初めて明らかになり、特徴的な筋肉性の脊索形質であることが示唆された。さらに、筋肉細胞と神経細胞の解析の結果を統合することによって、脊索動物の起源を探るために重要となるナメクジウオの脊索細胞、筋肉細胞、神経細胞の分子的基盤を示した。 2. 原腸形成と脊索形成を制御するBrachyury遺伝子ネットワーク進化の解析 頭索動物ナメクジウオと尾索動物ホヤのBrachyury発現制御機構の解析を進めてきた。ナメクジウオのBrachyuryゲノム領域には原口、筋肉、脊索での発現を制御する領域がそれぞれ存在することが明らかになった。さらに、ナメクジウオゲノム比較情報をもとに解析を進めた。
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