研究課題/領域番号 |
15K07177
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (40179239)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Rattus exulans / Rattus rattus / Mc1r / Asip / haplotype structure / recombination / phylogeography / melanism |
研究実績の概要 |
ナンヨウネズミ(R. exulans)およびクマネズミおよび(Rattus rattus species complex)を含めた動物群に着目し、Mc1rおよびAsip毛色関連遺伝子の変異性に関する調査を行った。これまでの調査の結果、ナンヨウネズミはミャンマー集団においては、多様な毛色変異が自然集団に存在することが判明し、調査した2つの毛色関連遺伝子の変異性も著しく高いことが明らかとなった。特にMc1r遺伝子のコドン34番目のアルギニンからトリプトファンへの非同義置が腹側毛色の白色性に関与する可能性が示唆された。また、Asip遺伝子の約80kbの3つの領域、(1)タンパク質をコードするExon 2, 3, 4を含む領域、(2)プロモーターExon 1A、および(3)プロモーターExon 1Bの変異を解析した結果、塩基配列の変異性が顕著に高いことが判明したが、領域間の連鎖不平衡のレベルは低く、進化的時間の中で組換が生じ、Asip遺伝子全体のハプロタイプとしてみると、多様性のレベルが高いことが判明した。一方、クマネズミは、通常アグーチパターンを示す沖縄集団において例外的に全身黒色性を示した4個体について、Asip遺伝子のアミノ酸コード領域を解析したところ、Exon 4上のコドン124番目のアミノ酸がシステインからセリンに変化する非同義置換が認められた。他の地域の個体を含め、ハプロタイプの構造を解析した結果、黒色性を示す変異は外来性ではなく沖縄島で生じた変異である可能性が示唆された。この黒色責任変異は組換体ハプロタイプ上にも存在したため、遠い過去に変異が生じたか、あるいは、組換えのホットスポットが当該領域間に存在する可能性が示唆された。今後、Asip遺伝子の組換の特異性について精査していくことで自然選択に伴う多様性消失の回避機構解明に有益な情報が得られるものと期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄産クマネズミのAsipタンパク質のC末端システインリッチ領域のシステインが消失する変異が、黒色化を導くことを明らかにし、現在、論文執筆中である。この研究において、AsipのExon 2, 3, 4領域の解析断片を統合して系統地理学的マーカーとして活用できることを示すことができた。このハプロタイプ構造解析の結果、インド・ヨーロッパ系統と東アジア系統の2つの系統を代表するハプロタイプが検出され、その間の組換体も観察され、自然史の解明および新しい系統地理学的マーカーの開発という双方の点で進展がみられた。一方、当初予測していた組換頻度よりも高い値が得られたため、想定外ではあったが、Asipには組換頻度を高める特別な仕組みが存在する可能性も示唆するデータも得ることができ、哺乳類における毛色進化上、重要な役割を演じている本遺伝子の特性の理解に向けて大きな成果が得られたものと思われる。 毛色に関しては、明度および彩度を測色計(CM700D, コニカミノルタ)を用いて定量的に調査し、軽微な毛色変異にも対応できるシステムを確立中である。実際にオニネズミ類(Bandicota属)において測色計を用いて腹側の変異において種間の違いを定量的に解析し、デンドログラムの作成を行うことで毛色グループの可視化を行うシステムを確立することができた。 さらに、ハツカネズミにおいては、コード領域上流100 kbくらいに存在するinverted repeatsが、逆位を起こすことで腹部毛色の大きな変化が生じることが示唆されいるため、ゲノムデータが存在する齧歯類各種(ドブネズミ、モルモット、ハダカデバネズミなど)においても当該のinverted repeatsが存在するかどうかを現在調査中である。
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今後の研究の推進方策 |
西日本に生息するコウベモグラ(Mogera wogura)は近畿・東海(系統Ⅰ)、中国・四国(系統Ⅱ)、九州(系統Ⅲ)の3系統に分かれることが過去のミトコンドリアDNA(mtDNA)の解析結果から知られている。西日本に生息する生物では中国地方に地域系統群の分布境界線がみられる例が複数報告されており、コウベモグラの系統Ⅱと系統Ⅲでは島根県高津川と広島県太田川付近に境界線があると推測されているが、詳細な境界線および境界線の形成要因は明らかにされていない。そこで本研究では、系統Ⅱ-系統Ⅲ間の詳細な分布境界線の策定と境界線の形成要因の解明を目的とし、mtDNAのCytb (1140bp)遺伝子の変異から空間構造と進化的動態の解析を行った。その結果、系統Ⅱ-系統Ⅲ間のmtDNAの境界線は広島県尾道市と島根県浜田市を結ぶライン上に存在することを示唆することができた。また、mismatch distribution解析では、どちらの系統でも過去に集団の一斉放散が起きたことが示された。この一斉放散が第四紀の10万年周期の気候変動に伴い、氷期のボトルネックとその後の間氷期の急激な温暖化により生じたと仮定すると、平均塩基置換数から、系統Ⅱでは約1万年前、系統Ⅲでは約13万年前の氷期終了後に一斉放散が起きたものと推測された。以上のことから、系統Ⅱと系統Ⅲ間の境界線は、最終氷期後の一斉放散で分布を拡大した系統Ⅱの集団とそれ以前から中国地方西部に分布していた系統Ⅲの集団が分布を交錯させたことにより生じた可能性が示唆された。今後、mtDNAで明らかになった境界線について核遺伝子を用いた解析により、遺伝的交流の時空間動態について詳細に解明していく計画である。同時に、クマネズミ、ナンヨウネズミ、オニネズミ、ハツカネズミにおいても毛色関連遺伝子Mc1r, Asipの進化的動態を解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月注文分の一部が年度末までに反映されず、4月に入ってからの決算となったため
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように実質的には本予算分については使用済みとなっている
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