平成29年度には,貧栄養湖深底部と共通する種類が生息していると推測される湧水や地下水環境で貧毛類の採集調査を行った.その結果,十和田湖に近い八甲田山の湧水帯からナガミミズ科の1種とオヨギミミズ科の3種,およびミズミミズ科の5種が発見された.このうち,ナガミミズ科の1種とオヨギミミズ科の2種は未記載種で,そのうちのひとつは未記載属に該当した.人為的な湖水の酸性化のために1940年代に湖底の生物群集が壊滅した田沢湖では,集水域の湧水帯から地下水種と推測される5種の貧毛類が発見され,そのうちの2種は未記載種であった.これらの点から,かつての田沢湖の湖底には固有性の高い貧毛類群集が成立していた可能性が指摘された.未記載種を含む地下水種の分類学的な記載をアメリカのSteve Fend博士と,遺伝子を使った系統解析をスウェーデンのCrister Erseus 教授と共同で開始した. 過去3年間の結果を総括すると,北日本の貧栄養湖の深底部には,主に地下水種から構成される,湖沼ごとに独自性の高い貧毛類群集が成立していることが明らかになった.特に,支笏湖の深底部では多様性の高いファウナが成立していることがわかった.一方で,一部の湖沼では,近年の湖沼環境の変化に対応すると思われる貧毛類群集の変化が見られた.たとえば,倶多楽湖では,深底部でかつて豊富だった貧毛類が2016年には確認できず,湖底の貧酸素化との関連が推測された.猪苗代湖でも,湖水の中性化に関連すると思われる貧毛類群集の構造の変化が見られた.貧栄養湖深底部の群集の構成種はほとんどが低温狭温性で酸素要求性が高い種であるため,湖底環境のわずかな変化が存続に影響していることが推測された.
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