研究課題/領域番号 |
15K07179
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小島 純一 茨城大学, 理学部, 教授 (00192576)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会性カリバチ / 自然史 / 日本列島 / 生物地理 / 分布 / 種分類 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績としては以下のとおりである。 (1)これまでオス形態において区分が難しいとされてきた、氷河期の残存分布を示すとされている、いわゆる「北方―温帯域高標高分布種」であるニッポンホオナガスズメバチ(Dolichovespula saxonica)とシロオビホオナガスズメバチ(D. pacifica)につき、分子データによるメス・オスの照合と詳細な形態比較を行うことで、オスならびにメスで両種を確実に識別しうる形態形質を明らかにした。この結果を受け、両種の日本列島での分布を考察する上で重要と思われる本州中部高標高域と北海道において採集調査を行った。(2)分子データに基づく系統解析と形態比較に基づき、対馬島から九州北部・本州西部に分布する社会性カリバチについて解析した限りにおいては、スズメバチ亜科スズメバチ属(Vespa)とアシナガバチ亜科ホソアシナガバチ属(Parapolybia)のうち九州ならびに本州西部、四国)に分布する種は、韓国(朝鮮半島)と対馬にも分布することを明らかにした。一方、アシナガバチ亜科アシナガバチ属(Polistes)では、形態情報ならびに分子情報に基づき、日本列島では対馬にのみ分布する1種が確認された。本種が未記載種であるか、朝鮮半島にも分布する既記載種であるのかの判断は直近の課題として位置付けている。 (3)博物館等に所蔵されている標本調査は、平成29年12月に9日間、平成30年2月に1週間にわたって北海道大学総合博物館ならびに小樽市総合博物館運河館で行い、合計約3,000標本の種同定と採集情報を記録した。北海道大学総合博物館には、道央を中心とした北海道のみならず、九州南部、四国ならびに本州中部において採集された標本も収蔵されており、日本列島全体での社会性カリバチの分布解明に寄与しうる分布情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に整備した日本列島の社会性カリバチの分布パターンの概要を明らかにする標本データベースを、本年度の採集調査ならびに北海道大学総合博物館と小樽市総合博物館運河館での標本調査によりデータを追加し、より詳細な分布パターンの解明に資するものとした。 既発表の分布記録ならびに博物館等の収蔵標本調査による分布情報において、北海道道北地域のクロスズメバチ属(Vespula)とホオナガスズメバチ属(Dolichovespula)各種の分布情報が乏しかったため、道北地域で採集調査を行ったが、ほとんど採集することができなかった。平成28年度に旭川市周辺で行った、ハナウドとシシウドへの訪花個体(大半がオス)の採集では多数個体が採集できたが、本年度においては同じ場所、ほぼ同じ時期に採集調査を行ったにもかかわらず、ほとんど採集することができなかった。この原因は定かでないが、気候条件等の影響で、出現時期が例年とは異なった可能性もあり、道北地域のクロスズメバチ属とホオナガスズメバチ属の詳細な分布調査が今後の課題として残った。 日本列島がアジア大陸と地続きであった地質年代に、朝鮮半島経由で現在の九州への侵入経路に位置する対馬の社会性カリバチ相の詳細を明らかにするために必要な標本を整備した。この中で、日本列島では対馬にのみ分布するアシナガバチ属の1種を確認した。本種のオスや巣の採集、朝鮮半島に分布するアシナガバチ属との詳細な比較に基づく分類学的研究が今後の課題ではあるが、本種の確認は、日本列島の社会性カリバチ相において、対馬が特異なものであることを示唆する。中国南部から韓国釜山に人為的に侵入・定着し、さらに対馬に侵入・定着した特定外来生物ツマアカスズメバチ(Vespa velutina)の在来社会性カリバチ相への影響の評価においても、対馬の在来社会性カリバチ相解明で本課題研究の成果は貢献しうる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成30年度には、日本列島に分布する社会性カリバチの分類学的整理と日本列島への侵入と列島内での分散経路に考察を加え、総説論文をまとめる。 その内容をより確実なものにするために、道北地域においてクロスズメバチ属とホオナガスズメバチ属のオス出現期である8月中旬に、また日本列島では対馬にのみ分布するアシナガバチ属の1種のオス出現期である8月下旬に、それぞれの地域での採集調査を行う。
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