研究課題/領域番号 |
15K07180
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
綿野 泰行 千葉大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 同型胞子シダ植物 / 自殖 / マイクロサテライト / RAD-seq / SNP / 連鎖地図 |
研究実績の概要 |
オニヤブソテツの2倍体有性生殖細胞型は、北方型のヒメオニヤブソテツ(以下ヒメオニ)と南方型のムニンオニヤブソテツ(以下ムニンオニ)に区別できる。北方型のヒメオニは、配偶体上での生殖器(造精器と造卵器)の形成の仕方(性表現)に集団間変異がある。他殖に適応した性表現のS-type(造精器と造卵器の分離形成型)と、自殖に適応したM-type(造精器と造卵器の同時形成型)である。一方、南方型のムニンオニは他殖に適応したS-typeに固定している。このオニヤブソテツ2倍体有性生殖集団が、同型胞子シダ植物における、交配様式の進化のモデル実験系として最適であると考え、多方面からアプローチを行っている。 マイクロサテライトを用いて、ヒメオニのS-type集団とM-type集団の交配様式を調べたところ、共に中間的な近交係数を示すが、M-type集団(FIS=0.626)の方が、S-type集団(FIS=0.208)より自殖率が高い事が示唆された。配偶体での性表現型の違いが野外集団の自殖率に反映していることを示した最初の事例であり、論文化した(Imai et al. 2016.PLoS ONE 11(10): e0163683). RAD-seqによって得たSNPデータの解析からは、ヒメオニでは約2万年前に、顕著なボトルネックを経験したと示唆された。高自殖性の進化に歴史的なボトルネックイベントが関与した可能性があり、興味深い。この結果は投稿準備中である。 S-typeのヒメオニ個体とM-typeのムニンオニ個体のF1雑種を用いた連鎖地図の作成と、性表現決定遺伝子の地図へのマッピングについても進行中である。RAD-seqによって予備的に連鎖地図の作成を行ったが、1:1に分離する579個のSNPを42個の連鎖群に配置できる事を確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
野外での交配様式の変異のマイクロサテライト解析および、集団間の系統解析は出版および論文作成中であり順調である。しかし、ヒメ×ムニンの雑種個体の配偶体の性表現型の認識方法について、試行錯誤を行ったため、性表現型の連鎖地図へのマッピングの作業が遅れている。 連鎖地図作製のためのマーカーとしてRAD-seqによるSNPsが妥当かどうか検討を行った。その結果、約1万個のコンティグが得られ、エラーを除いた結果1183個のSNPが残った。1:1の分離比から有意にずれていない者を残し、最終的に579 SNPsを42個の連鎖群に配置することが出来た。全連鎖群の総長は2475cMとなった。これは、729個のマーカー(368RFLP, 358AFLP, 3Allozyme)を使ったミズワラビの連鎖地図(2179cM)にほぼ規模が匹敵し(Nakazato et al. 2006)、RAD-seqによって極めて簡便に連鎖地図が作成可能であると判明した。 松本(2003)では、ヒメ×ムニンの雑種個体から得た配偶体集団においては、S-typeの配偶体とM-typeの配偶体が1:1に分離すると述べている。最終的に松本(2003)にほぼ等しい手法で培養を行い、デジタルマイクロスコープで115個体の配偶体を観察した結果、S-typeが51個体、M-typeが64個体となり、再現性を確かめることが出来た。今後、この分離集団を材料に、連鎖地図を作成し、性表現型のマッピングを行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
性表現型を決定した115個体の配偶体についてRAD-seqを行い、1:1に分離したマーカーを用いて、R/qtlソフトウェアを用いて連鎖地図の作成と、性表現決定遺伝子座のマッピングを行う。マーカー密度が足りない場合は、同じDNAサンプルを用いて、異なった制限酵素を用いたRAD-seqを行う。性表現決定遺伝子座をマッピングできた場合、ヒメオニヤブソテツのより多くの集団についてRAD-seqを行い、連鎖地図に載せることが出来たマーカーについて、ゲノムスキャンを行い、性表現決定遺伝子座近傍に自然選択が働いているか否かの検証をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度内に、RAD-seqの解析の委託(約30万円)を行うよう計画をたてていたが、結果がでるまで3カ月程度が必要である。サンプルの準備に時間がかかり、依頼から結果が出るまでに年度をまたぐ可能性が明白となったので、平成29年度分に持ち越すことを決意した。
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次年度使用額の使用計画 |
持ち越した35万円は、性表現型を決定した115サンプルのRAD-seq解析の委託に使用する。
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