オニヤブソテツの二倍体有性生殖型は、北方型のヒメオニヤブソテツ(以下ヒメオニ)と南方型のムニンオニヤブソテツ(以下ムニン)の二亜種に分類される。ヒメオニの集団間には、配偶体の性表現に関してS-type(造精器と造卵器の分離形成型)と、M-type(造精器と造卵器の同時形成型)という多型が存在する。 本研究ではヒメオニ7集団のマイクロサテライト解析を行い、1)佐渡の1集団を除き、中間的な自殖性(FIS: 0.20~0.79)を示す事、また2)自殖適応と推定されるM-type集団(FIS: 0.63)の方が、S-type集団(FIS: 0.21)より自殖性が高い事、そして3)ABC法で推定された有効な集団サイズもM-type集団(169-328)が、S-type集団(465-846)の半分以下である事を明らかにした。 ゲノムワイドSNPsの解析では、佐渡のヒメオニは、遺伝的にはムニンに近く、佐渡を除くヒメオニ集団が単系統となると判明した。従って、S-typeで他殖性の祖先集団(ムニン)から、高頻度に自殖を行う系統(ヒメオニ)が派生的に進化したと想定される。EBSP等の解析では、ヒメオニにおいて最終氷期に明確なボトルネックが検出され、自殖の進化との関連が示唆された。 S-typeのムニンとM-typeのヒメオニの人工F1雑種の配偶体を分離集団として、RAD-seqおよびMIG-seqによって得られたSNPsを用いて連鎖地図を作製した。結果として、521SNPマーカーを用い、42個の連鎖群から構成される連鎖地図を作製した。マーカー間平均距離は3.7 cMであった。分離集団におけるS-typeとM-typeの性表現分離データを用いてQTLマッピングを試みたが、有意な相関は検出できなかった。従って、この二亜種間の性表現は比較的多数の遺伝子座で支配されていると考えられる。
|