本研究では日華植物区系固有のアオキ属(Aucuba)の系統分類および系統進化・適応進化について、ゲノム情報を駆使して総合的に理解することを目的としている。昨年度までに分類学的にも地理的にも属を網羅したサンプリングと、葉緑体DNA(複数の遺伝子領域および非遺伝子領域)と核DNA(ITS領域、GapC遺伝子、rpb2遺伝子)に基づく解析を実施し、この結果を踏まえて系統分類に関する論文の準備していたが、アオキ属のいくつかの学名に命名上の問題があることがわかり、原記載論文とタイプ標本の再調査により問題点を整理して論文を準備しているところである。また系統解析の結果のうち、葉緑体DNAにおいてrbcL遺伝子ではA. japonicaが単系統にはならないが、他の遺伝子および非遺伝子領域ではA. japonicaが単系統になることを考慮して、代表サンプルを選抜して、葉緑体DNA全塩基配列の決定を試みた。断片化が少なくなるように生葉から全DNAを抽出した後、葉緑体DNA(約15万bp)を8分割(約1.2万bp~2.4万bp:2つのIR領域は1区分として)して増幅するように設計されたプライマーセットを用いてLong PCRによる増幅を行い、ライブラリー調整を行った。Long PCRでは8区分された領域全てを増幅できないサンプルがあったため最終的にはアオキ属の18サンプルと、外群(ガリア属)の1サンプルについてライブラリー作成を行った。この後、次世代シークエンサーにより配列データを取得する予定であったが、ライブラリー作成に時間が要したことと、機器の不調で現段階で取得には至っていない。引き続き、葉緑体DNA全塩基配列の決定のための解析を進める予定で、A. japonica種内で、葉緑体DNAにおいてrbcL遺伝子に自然選択が働いているかを検証できる。
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