研究課題/領域番号 |
15K07182
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山田 敏弘 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (70392537)
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研究分担者 |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
堤 千絵 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (30455422)
小藤 累美子 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (40324066)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 温度依存的種分化 / シダ類 / ゼンマイ / レガリスゼンマイ / 光障害 |
研究実績の概要 |
ゼンマイ科のレガリスゼンマイ(Osmunda regalis)は,世界の温帯~熱帯にかけて分布する側系統種で,東アジアに分布するゼンマイ(O. japonica)を含む形で単系統群をなす(以後,レガリスゼンマイ種群と呼ぶ)。レガリスゼンマイ種群における分布範囲の広さは種群内の系統ごとに異なり,狭いもの(インド系統)と,広いもの(ユーロアフリカ系統,新世界系統,ゼンマイ)とがある。私たちは,生育温度と分布の関係を調べるため,本年度までにレガリスゼンマイの3系統とゼンマイとについて,配偶体を25℃,30℃で培養し,それらの生育適温を比較した。その結果,25℃ではどの系統も正常に生育するのに対し,30℃では,分布範囲の狭いインド系統のみ,100%近くが白化して枯死した。また,♀インド系統 x ♂ゼンマイの異質4倍体雑種アイノコゼンマイ(O. hybrida)の配偶体も,母系種のインド系統と同様に30℃で枯死した。従って,インド系統に見られる負の高温感受性の原因因子は,母系遺伝する葉緑体にあると推定された。 さらに,葉緑体に起因する高温枯死と光障害との関係を調べるため,インド系統,ゼンマイ,アイノコゼンマイの配偶体を,暗所の25℃,30℃で培養した(培地に栄養源としてスクロースを添加)。その結果,25℃でも30℃でも,どの系統の配偶体も枯死しなかった。従って,インド系統とアイノコゼンマイの配偶体における高温枯死は,光障害によって引き起こされる可能性が示唆された。今後,25℃,30℃における光合成活性を測定するなど,高温枯死と光障害との関係をさらに追求する必要があるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではゼンマイ属における温度依存的種分化を解析してきた。その結果,レガリスゼンマイにおいて,「葉緑体の特性によって生育適地が決まる」という,予想外の新奇現象を発見した。そのため,実験計画を変更し,レガリスゼンマイの培養実験に注力した。その結果,一部の集団で,光障害が原因となって,高温環境に生育できないことを突き止めた。しかし,なぜ光障害が起きるのかについてのメカニズムまでは踏み込めていない。一方,レガリスゼンマイに注力した結果,他種(シロヤマゼンマイ,オニゼンマイ,レプトプテリス)での培養実験が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
1)レガリスゼンマイで高温依存的光障害が起きるメカニズムについては,光学顕微鏡による予備的観察の結果,葉緑体の分裂異常である可能性が考えられた。そのため,葉緑体の分裂異常が起きていることを明示するため,透過型電子顕微鏡を用いた観察を行う。また,高温環境で光合成活性が低下していることを確かめるため,PAMによる光合成活性測定を実施する。 2)オニゼンマイについては,既に胞子を入手しているので,その培養実験を速やかに実施する。また,レプトプテリスについては昨年度の予備培養で,高温で発芽率が低下することに気付いた。そこで,低温域を中心に培養実験を進める。シロヤマゼンマイの胞子は未入手だが,確実に入手できる生育地情報を得たので,4月中に採集調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゼンマイ属植物の生育環境と温度との関係を調査したところ,葉緑体の特性が生育環境に関与する可能性が示唆された。この可能性を確実に示すため,1)光合成活性のPAMによる測定,2)生育地における温度・光量の実測データの採集,の必要が生じた。そのため,計画を急遽変更したが,変更後の計画を年度内に終えることができなかった。また,ゼンマイ科の他属の温度嗜好性に関する研究も行う予定であったが,胞子の培養条件の検討に時間が掛かり,予定よりも実験の進捗が遅れた。そのため,遅れた作業に充てる予定であった予算が,次年度使用額として残った。これらの作業を平成30年度中も続け,その遂行にこの額を充てる。
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