研究課題/領域番号 |
15K07183
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
中村 浩平 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (40456538)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メタン発酵 / メタ16S解析 / メタゲノム解析 / n-alkane / BTEX / MEOR |
研究実績の概要 |
本年度は(1)アルカン分解菌の分離と性状解析と(2)無酸素環境下における炭化水素分解菌群の多様性解析を行った。(1)において,平成27年度において,アルカン-低級脂肪酸-フマル酸塩培養系において Acinetobacter属細菌が集積された。Acinetobacter属細菌は好気性のアルカン分解細菌であり,メタン発酵を伴うアルカン分解系のような絶対嫌気性環境下で生育は困難であると考えられた。しかしながら,同様に好気性細菌が油田環境から報告されていることから,Acinetobacter属の嫌気的アルカン分解への関与を調査した。複数回の継代培養で,ヘキサデカンの減少とフマル酸塩の還元が確認された。しかし,継代を重ねるごとにヘキサデカンの減少は小さくなり,最終的にヘキサデカンの減少能は消失し,Acinetobacter属細菌の嫌気的アルカン分解への関与は明らかにできなかった。また,Peptococcaceae科細菌を優占種として含む高度集積培養系の構築を試みたが,一定回数の継代によってアルカン分解メタン発酵能が低下する(ほぼ消失する)ことが明らかになった。(2)において,硫酸塩還元を伴うトルエン分解系の集積とその集積系内のメタ16S解析を行った。集積系内には,Deltaproteobacteria綱に属する細菌が優占し,近縁種として既知のトルエン分解硫酸塩還元細菌が存在した。しかしながら,本集積系内の優占硫酸塩還元菌は,その近縁種の嫌気的トルエン分解とは異なる経路でトルエン分解を担う可能性が,クローンライブラリー解析から示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安定同位体を用いた(中間)代謝物の解析を行うために新たな集積培養系を起ち上げた。この集積培養系はアルカン分解メタン発酵が確認できた(植菌源を最初に植菌した)培養系の継代培養系であり,最初の継代においてはこのアルカン分解メタン発酵能が確認できたが,2回目の継代でこの活性が(ほぼ)消失した。これは,ある一定の継代回数(植菌源となった現地試料からの希釈)により活性が消失することを示した。これは当初の実験計画では想定していない結果であった。この継代による活性の消失について現時点で考えられる理由として,1)未培養Peptococcaceae科細菌を含むアルカン分解メタン発酵群集が要求する有機物・微量元素などが現地試料中に存在し,これが継代によって希釈された(枯渇した)ため,2)優占種ではないRareな微生物群が,未培養Peptococcaceae科細菌を含むアルカン分解メタン発酵群集の機能を補完し,これが継代によって限外希釈され消失したため,が考えられた。これらの検討するために,1)については現地試料無細胞液の追加,2)については複数のアルカン分解メタン発酵培養系内に存在するRareなコア微生物群集の解析を進める予定である。 硫酸塩還元を伴うトルエン分解系には,新規な嫌気的トルエン分解経路の可能性がある。高度に集積された本系から,メタゲノム解析と同時に硫酸塩還元菌の分離を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) アルカン分解菌の分離と性状解析 [メタゲノム解析] 平成28年度と同様に解析を継続する。メタ16S解析として,複数のアルカン分解メタン発酵培養系内に存在するコア微生物群集の解析を行う。アルカン分解メタン発酵系(またアルカン分解能をもたない系)として,現在,異なる試料源を用いたもの,培養温度,継代回数,等の条件がある。これらの条件から分解に関わるコア微生物群集を特定し,更に継代によって数を減らすRareな微生物群集の中に共通して存在するRareなコア微生物群集について解析する。 [培養] 継代培養によって失われる現地試料中の有機物・微量元素の影響が示唆されたため,現地試料無細胞液の追加や,アルカンを添加しなかったコントロール培養系の培養液等を継代培養系に添加して,アルカン分解メタン発酵能が回復するかどうかを検証する。また,メタゲノム,メタ16S解析によって得られた情報(メタ16S解析によって明らかにされるRareなコア微生物群で栄養要求などが既知の場合)を継代培養条件の参考にする。 (2) 無酸素環境下における炭化水素分解菌群の多様性解析 硫酸塩還元トルエン分解集積培養系のメタゲノム解析を行う。高度に集積された本系からは,優占硫酸塩還元細菌のほぼ完全なゲノム情報が取得できると期待できる。また,本硫酸塩還元細菌の分離培養も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
継代培養による高度集積培養系の構築が当初の計画通りに進まず,予定していた炭素安定同位体を含むアルカンの購入を見合わせたため。
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次年度使用額の使用計画 |
この購入見合わせによる残額については,硫酸塩還元を伴うトルエン分解培養系の集積培養が当初の予定より順調に進んでいることから,本系のメタゲノム解析の費用に用いる。また,新たな嫌気的炭化水素分解系の植菌源となる試料の採取にかかる旅費にも用いる。
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