アキノタムラソウとリンドウについて、渓流沿い集団の起源を明らかにするためマイクロサテライトマーカーを使用した解析を行った。アキノタムラソウは研究期間を通じて、19集団361サンプルを収集し、7つのマイクロサテライトマーカーについて、遺伝子型の決定を行った。また、リンドウでは、22集団476サンプルについて10個のマイクロサテライトマーカーにより遺伝子型の決定を行った。アキノタムラソウでは、ベイズ法に基づく集団クラスタリングの結果K=2であることが推定された。クラスター1には、鮎喰川、貞光川、一宇、風呂塔と比較的に地理的に近い集団から構成されていたが、クラスター2は徳島の剣山と岡山の奥津渓の集団から構成され、地理的な傾向はなかった。その他の集団は2つのクラスターのアドミクスチャーになっていた。遺伝子分化係数は0.039~0.336であり、四国・中国・九州の各地域の集団間の遺伝的分化が低い傾向が見られた。早咲き集団のうち、那賀川、四万十川、奥津渓、では近隣の陸上集団とのFstは0.2~0.3程度であり、遺伝的分化が見られたが、九州の小丸川では近隣集団との遺伝的分化は小さかった。河川間のFstは0.11~0.18であり、陸上集団と河川集団との遺伝的分化よりも低い傾向が見られた。このことから、アキノタムラソウでは河川の早咲き集団が独立に起源している可能性が示唆された。また、リンドウでもK=2にクラスタリングされ、22集団は九州と本州北部・中国地方の集団からなるクラスターと四国集団からなるクラスターに区分された。遺伝的距離によるフェノグラムを作成した結果、近畿・中国地方、四国・九州からなる2つのクラスターが認められたが、河川集団のみがまとまることはなかった。しかし、四万十川と球磨川や吉野川と仁淀川がそれぞれクラスターを形成したため、これらの河川には関連性があるものと思われる。
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