研究課題/領域番号 |
15K07189
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
和多田 正義 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (00210881)
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研究分担者 |
陰山 大輔 国立研究開発法人農業生物資源研究所, 昆虫微生物機能研究ユニット, 主任研究員 (60401212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 性比異常 / ウイルス / 形質転換 |
研究実績の概要 |
ヤマカオジロショウジョウバエの子のみがメスになる系統(全雌系統)は、細胞内共生菌による雄殺しと同様に母から子に確実に伝達する。しかし、分子遺伝的解析や抗生物質処理、及び電子顕微鏡観察では原因となる細菌類が検出されなかったことから、この性比異常現象の原因はウイルス様因子が原因ではないかと考えられるようになった。本研究では平成27年度において以下の実験を行った。 最初の系統が発見された北海道でヤマカオジロショウジョウバエの採集を行った。採集されたヤマカオジロショウジョウバエ55系統のうち、3系統が性比異常の系統であり、その頻度は2011年の5%と同様な5.5%になった。 全雌系統の細胞物質をヤマカオジロショウジョウバエとキイロショウジョウバエの雌にインジェクションし、その雌の子に雄が出るかどうかで判断する形質転換の実験を行った。結果は一部のヤマカオジロショウジョウバエでのみ形質転換がおこり、キイロショウジョウバエでは現在のところ形質転換体は得られていない。 2011年に採集された全雌系統、及び形質転換により全雌系統になった系統を用いて、雌雄が産まれる正常な系統の雌雄をコントロールとしてRNA-seqによりトランスクリプトームの比較実験を行った。その結果、複数のウイルス遺伝子が検出された。コントロールでは全く検出されなかったが、2つの全雌系統で共通に検出されたのは、RNAウイルスであるPartitivirusの遺伝子であった。全雌系統に複数のウイルスが存在することがRNA-seqの結果、明らかになったので超遠心機によるウイルス粒子の精製は行わないことになった。本研究の結果、野外から複数の全雌系統が得られ、今後の研究に使用することが可能になった。また、RNA-seqの解析の結果、性比異常をおこすウイルスをその候補としてあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に実行された北海道における野外採集では、新たに3系統の全雌系統を得ることができた。これらの系統は今後、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析に用いることにより、性比異常現象をおこすウイルス同定のための実験材料として使用することができる。 全雌系統の細胞物質をヤマカオジロショウジョウバエとキイロショウジョウバエの雌にインジェクションし、その雌の子に雄が出るかどうかで判断する形質転換の実験では、一部のヤマカオジロショウジョウバエでのみ形質転換がおこり、キイロショウジョウバエでは形質転換体は得られなかった。いずれの形質転換の実験でも、形質転換を試みたサンプル数は少なかったので、今後サンプル数を増やすことでヤマカオジロショウジョウバエ以外の種へも形質転換が可能かどうか検討することができる。 正常な系統の雌雄をコントロールとして行ったRNA-seqによるトランスクリプトームの比較実験では、コントロールでは全く検出されないが、2つの全雌系統で共通に検出された性比異常の原因因子として、RNAウイルスであるPartitivirusを候補に挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の実験では、全雌系統の細胞物質をヤマカオジロショウジョウバエとキイロショウジョウバエの雌にインジェクションした結果では、一部のヤマカオジロショウジョウバエでのみ形質転換がおこり、キイロショウジョウバエでは形質転換体は得られなかった。今後は、インジェクションのサンプルを増やすと同時に、ヤマカオジロショウジョウバエの近縁種のカオジロショウジョウバエ等にもインジェクションを行い、どの近縁種までが性比異常に対して耐性を持っているかを明らかにする。 平成27年度の採集で得られた新たな全雌系統や、形質転換によって新たに全雌系統になった系統を用いてRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行うことにより、性比異常現象をおこすウイルスがPartitivirusであることを確定する実験を行う。上記の全雌系統で共通にPartitivirusの遺伝子が確認され、コントロール系統では見られなければ、性比異常現象の原因因子がPartitivirusであることが強く推察されることになる。キイロショウジョウバエ等で形質転換がうまくいけば、この種で正常系統と全雌系統を用いてRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行う。モデル生物であるキイロショウジョウバエでは、ゲノムデータが確立されているので、トランスクリプトームの解析により、ショウジョウバエで性比異常を引き起こす原因遺伝子を解明できる可能性が非常に高くなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の北海道のショウジョウバエの採集費は、他の研究プロジェクトの研究費の併用で行うことができたので、本研究費で運用する必要がなかった。また、平成27年度のRNA-seqによるトランスクリプトーム解析についても、他の研究プロジェクトによるトランスクリプトーム解析にサンプル数の余剰がうまれたことにより、本研究費で独自に運用する必要がないことになった。これらのことにより予想外の金額が未使用になり、次年度使用額が大幅に増大することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度から繰り越する次年度使用額は、平成28年度のRNA-seqによるトランスクリプトーム解析に使用することで、解消することができる。
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