研究課題/領域番号 |
15K07189
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
和多田 正義 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (00210881)
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研究分担者 |
陰山 大輔 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (60401212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 性比異常 / ウイルス / ボルバキア / 形質転換 |
研究実績の概要 |
ヤマカオジロショウジョウバエのメスになる系統(全メス系統)は、細胞内共生菌による雄殺しと同様に母から子に確実に伝達する。本研究での分子遺伝的解析や抗生物質処理、及び電子顕微鏡観察では原因となる細菌類が検出されなかったことから、この性比異常現象の原因はウイルス様因子が原因ではないかと考えられ、昨年の RNA-seq の解析結果から現在ではRNAウイルスである Partitivirus が原因であることが示唆されている。 Partitivirus による全メス現象が雄殺しであるかどうかを確認するために、全メス系統及び雌雄が産まれる正常系統で孵化率と卵から成虫までの生存率を調査したところ、全メス系統では卵から成虫までの生存率は孵化率の半分で、この現象が雄殺しであることが示唆された。さらに、Partitivirus による全メス系統は、正常系統と比較して産卵数の増加やミトコンドリアの形態異常の増大も引きおこすことが観察された。 インジェクションによる正常系統から全メス系統への形質転換の割合は大変低く、再現性がほとんどなかった。そこでインジェクションする体液を濃縮する方法を開発した結果、インジェクションの成功率を上げることができ、より多くの形質転換体を得ることができた。 平成27年に北海道で採集されたヤマカオジロショウジョウバエの3系統の性比異常系統は、PCR法による調査で Partitivirus によるものでなく、ボルバキアによるものであることが明らかになった。本研究の結果、ショウジョウバエでは初めて1つの種で2つの要因による性比異常現象があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に実行された北海道における野外採集では新たに3系統の全雌系統を得ることができたが、これらの系統の性比異常現象はボルバキアによるものであることが明らかになった。そのためこの3系統を用いて RNA-seq によるトランスクリプトーム解析を行うことはできなかった。しかし、この発見によりショウジョウバエでは初めて、1つの種で2つの要因による性比異常現象があることが明らかになった。また、Partitivirus による全メス系統では、孵化率と卵から成虫までの生存率の調査から、この現象が雄殺しによるものであることが示唆されただけでなく、正常系統と比較して産卵数の増加やミトコンドリアの形態異常の増大も引きおこすことが観察された。インジェクションによる正常系統から全メス系統への形質転換の割合を増加させるためにインジェクションする方法を改良し、体液を濃縮する方法を開発した結果、インジェクションの成功率を上げることができた。インジェクションによる新たな形質転換系統は、RNA-seq によるトランスクリプトーム解析に使用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ショウジョウバエで初めて、1つの種で2つの要因による性比異常現象があることが明らかになった。このことは、性比異常現象のメカニズムを解明する上で非常に重要である。ボルバキアによる全メス系統は、抗生物質によって除去することができ、かつ Partitivirus のインジェクションにより遺伝的バックグランドが全く同じ系統を作成することができる。同一のバックグラウンドを持つ2つの異なる性比異常現象を RNA-seq によるトランスクリプトーム解析を行えば、それぞれの現象に関与する遺伝子を特定する研究に使用できる。今までの実験でキイロショウジョウバエの雌にインジェクションした結果では、形質転換体は得られなかった。今後は、改良したインジェクションの方法を用い、キイロショウジョウバエや近縁種のカオジロショウジョウバエ等にもインジェクションを行い、どの近縁種までが性比異常に対して耐性を持っているかを明らかにする。また、複数の形質転換系統を用いてRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行うことにより、性比異常の原因因子としての Partitivirus の可能性をさらに高めることができる。平成27年度の北海道での採集では、Partitivirus による性比異常現象を起こす系統を採集できなかったので、今年度は北海道と長野県でヤマカオジロショウジョウバエの採集を行い、複数の性比異常現象系統の収集を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に実行された北海道における野外採集では新たに3系統の全雌系統を得ることができたが、これらの系統の性比異常現象はボルバキアによるものであることが明らかになった。そのためこの3系統を用いて RNA-seq によるトランスクリプトーム解析を行うことはできなかった。また、インジェクションによる正常系統から全メス系統への形質転換の割合は大変低く、十分な数の形質転換系統を得ることはできなかった。これらのことにより予想外の金額が未使用になり、次年度使用額を大幅に増大することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度から繰り越しをする次年度使用額は、平成29年度の北海道と長野県での採集と、RNA-seq によるトランスクリプトーム解析に使用することで、解消することができる。
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