研究実績の概要 |
今年度に北海道から採集したヤマカオジロショウジョウバエ(Drosophila biauraria)の新たな系統では、ボルバキアによって子供が全て雌になることを発見した。すなわち、D. biaurariaにおける性比異常現象の要因はウイルスとボルバキアの2つがあることが判明した。RNAウイルスによる全メス系統で、リボソームを除去したRNAを用いてRNA-seqを行ったところ、以前得られたPartitivirusのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)に相同な配列以外に3本の遺伝子が全メス形質にリンクして高発現を示していることがわかった。これら3本の遺伝子(ここではMKV1, MKV2, MKV3とする)はタンパクをコードしていると推定されるが相同性検索からは既知の配列は見つからなかった。Partitivirusは植物や菌類で知られる2本鎖RNAウイルスであり基本的に2分節のゲノムをもち、RdRpとコートタンパクがコードされている。今回見つかった4本の配列が、1つのPartitivirusが持つ遺伝子なのか、それとも複数のウイルス(様因子)が共存しているのかは不明である。また、正常系統に全メス系統の磨砕物をインジェクションし全メス系統を確立する際に、一部の系統でこれら4本の遺伝子のうち、一部の遺伝子が抜け落ちた系統を得ることができた。これらの系統の性比から特定の配列(MKV1)がオス殺しに必要な遺伝子であることが推定された。さらにRNAウイルスによる雄殺しの系統では、未交尾の雌でも産卵が活発であり、RNAウイルスの作用は雄殺しだけでなく、産卵数の増加にまで影響を与えることが明らかになった。一方、ボルバキアによる雄殺しの系統では、産卵数に与える特別な影響は見られなかった。以上の事より、雄殺しのメカニズムは同一でないことが示唆された。
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