消化管内微生物叢は、宿主との栄養学的な相利共生のみならず、宿主の恒常性維持に大きく関与していることが明らかとなってきた。一方で、消化管内微生物叢は食性や消化管形態に応じて、その構成が異なることも知られてきたことから、本研究では、微生物発酵槽となる前胃や盲腸をもたない極めてシンプルな消化管を持つ真無盲腸目に着目した。 最終年度は次世代シーケンサーによる解析を中心におこなった。これまでのフィールドワークによって得たDNAから16SrRNAのV3-V4領域(ca. 450bp)のアンプリコンをMiseqで解析した。ジャコウネズミ(Suncus murinus)において、野生捕獲した個体と実験動物化された個体のそれぞれから小腸および大腸の微生物叢を比較したところ、Firmicutes門とProteobacteria門が全体の9割を占め、ヒトやマウスにおいては主要な構成群であるBacteroidetes門が殆ど検出されなかった。この傾向はコウベモグラでも確認されたことから、Bacteroidetes門の欠如は微生物発酵槽のない真無盲腸目の消化管内微生物叢の特徴であると示された。しかし類似した傾向が食肉類でも報告されていることから、消化管形態のみならず食性も関与していることが想定される。また、推定総微生物種数および微生物叢の多様性を示すシャノン指数を比較したところ、野生捕獲した個体の方が実験動物化された個体よりも多様性が高い傾向を示した。さらに、近年に飼育下の動物で存在比が増加することが報告されているStreptococcaceae科が実験動物化された個体において増加しているなど、他の分類群と共通する傾向も観察された。これらの結果から、真無盲腸目はシンプルな消化管内微生物叢の構成を持つことから、消化管内微生物叢の変遷を調べる良い実験モデルになると考えられた。
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