研究課題/領域番号 |
15K07192
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
戸田 守 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (40378534)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 種分類 / 分子系統 / 東アジア / 爬虫類 |
研究実績の概要 |
平成28年4月に九州島,甑島,奄美諸島を訪れ,ミナミヤモリ,ニシヤモリ,ヤクヤモリとアマミヤモリの標本採集を行った.また,平成29年3月に台湾島と馬祖諸島でヤモリ類の調査を行い,さらに同国の共同研究者らと会談をして,現在までのヤモリ属の分類に関する知見を整理するとともに,今後の展開について詳細にまで踏み込んだ議論を行った. 野外調査の結果,台湾の馬祖諸島から知られている暫定未記載種が,これまで知られていた主要島とろ光島に加え,新たに東引島からも記録された.東引島は,馬祖諸島の主要島から東に26kmほど離れた孤島である.これを昨年度の調査結果と併せて考えると,この種は30kmほどの範囲に点在する馬祖諸島内に広く分布する一方,主要島から僅か7kmほどしか離れていない対岸の大陸中国には分布せず,島嶼型の種であることが確かめられた.このことは,本属の種多様性の創出・維持に,島嶼隔離が大きな役割を担ってきたことを改めて示している. また,台湾の西部山地の一角で採集された集団は台湾やその他の東アジア島嶼部から知られているミナミヤモリ集団と明らかに体色が異なり,mtDNAを使った系統解析でも特異な位置を示すことから,これも未記載種の候補として位置づけが可能なことが強く示唆された.ただし,体色以外の表徴形質はミナミヤモリと一致し,今後,詳細な形態比較が望まれるとともに,周辺域に調査範囲を広げ,本集団と典型的なミナミヤモリを併せたサンプルに対して分子・形態分析を進め,その連続性についても検討していく必要がある. これとは別に,早期の記載が望まれる沖縄諸島の暫定未記載種とミナミヤモリとの形態比較について,台湾をのミナミヤモリ標本を加えて検討した結果,これまで有望視していた両種の表徴形質が種間で重なり,さらに詳細な分析が必要であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
馬祖諸島の暫定未記載種の形態変異分析などを進め,その分布や分類学的帰属の整理に向けた作業は進んだが,オキナワヤモリとミナミヤモリの間に安定した識別形質を見いだすことは難航し,記載に踏み切るに至らなかった.また,昨年,台湾の亀山島から記載されたGekko gushanicusは,その記載論文で比較検討されている種が十分でなく,また,同様なフォームが台湾島にも見られるため,追補的な分類学研究が必要であるが,大陸に産するG. subpalmatusとの間に安定した識別形質が見いだせず,引き続き標本に基づく形態形質の比較を進めている.これらの問題もあり,本年度予定していた種の記載は年度中に完結することができなかった.また,九州で飛び地分布するヤモリ集団の起源を推定するテーマに関し,その進捗は予定よりもやや遅れており,分析の準備をするに留まった.
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今後の研究の推進方策 |
まず,日本と台湾の暫定未記載種,および再記載の必要性のあるG. guishanicusについて引き続き形態形質の変異分析を行い,妥当な鑑別点を見いだす.ただし,とくに広域分布するミナミヤモリでは地域間の変異性も高く,十二分に安定した種間差を見いだせない可能性もあるので,ある程度のところでこの作業に区切りをつけ,地域を分けた記述をして問題を回避するなどの工夫をしながら,年度の前半中に原稿を書き上げる.また,種間系統解析についても不足分のデータを早急に追加し,結果を公表する.新たに浮上した3つの分類学的問題,G. chinensisグループの分類とG. subpalmatusーG. melliグループの分類,および台湾西部山岳地の集団の扱いについて,分子形質と形態形質の両面からさらに検討を進め,少なくとも種の線引きまでを整理する.九州で飛び地分布するヤモリ集団に対する集団遺伝学的な分析を進め,それらの起源について議論する.
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