ミナミヤモリ,ニシヤモリ,ヤクヤモリの分布調査,およびそのDNA分析を行った.このうち鹿児島の大隅半島で接触するミナミヤモリとヤクヤモリについては,1990年代に行われた先行研究の結果に比べ,ミナミヤモリの割合が高くなり,推定交雑個体が海岸部に限定される可能性が示された.長崎半島近傍の2つの離島では,飛び地で分布するヤクヤモリの生息を確認した.崎戸諸島ではニシヤモリとミナミヤモリが島嶼ごとに排他的に分布し,2種の競争排除の結果と考えられた.DNA分析の結果,長崎に飛び地分布するミナミヤモリとヤクヤモリはともに九州の集団と非常に近く,元々異種がいた地域に2次的に分散定着したものと推定された. 系統に関しては,過年度に収集したサンプルおよびそれ以前に収集したサンプルに基づいて分子系統樹を作成した.mtDNAの部分配列に基づく解析によって主要なクレードが十分な支持率をもって認識でき,その多くが核DNAの3遺伝子領域を使った解析でも支持された.この結果に基づくと,ヤモリ属ニホンヤモリ種群は,中国南東部からベトナムにかけて分布するシナヤモリとその近縁種からなるクレードと,それ以外の種からなるクレードに大別され,後者が多岐にわたって分化していることが明らかになった.このクレードのなかでは,ベトナムの種が基部に位置する複数のクレードをなし,次いで中国南部や内陸部にいる種が分化し,中国東部の種と日本の固有種がより最近になって多様化してきたと推定された.このことから,本種群は南方に起源し,北,あるいは島嶼部へ繰り返し分散しながら多様化してきたと考えられた. 分類に関しては,ミナミヤモリ種複合群,ニシヤモリ,台湾の馬祖諸島ヤモリについて外部形態形質に基づく判別形質を見出し,記載の準備を整えた.一方,上記の系統解析により,中国のなかで新たに1つの隠蔽種の存在が強く示唆され,今後の課題となった.
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