研究課題
陸上植物や一部の紅藻類では、遺伝的に異なる個体間の交雑によって無性生殖化することが知られているため、スジアオノリでも同様の現象が起こるかを検証した。有性生殖型の場合、交雑によって生じた複相の第一世代(ヘテロ型胞子体)は、減数分裂して単相の生殖細胞を放出するため、その生殖細胞から発生した第二世代(ホモ型配偶体)はどちらか片方の対立遺伝子のみを受け継ぐはずである。もしヘテロ型の第二世代が得られれば、減数分裂が行われずに無性生殖化したと見なすことができる。北海道厚岸湖、新潟県三面川、兵庫県円山川、高知県四万十川、宮崎県加江田川から有性生殖型のスジアオノリを採取した。hsp90の部分配列を調べたところ8つの対立遺伝子が検出されたため、それらの培養株を確立し、6株の配偶体を用いて交雑実験を行った。交雑を行ったすべての組み合わせで接合反応が起こり、接合子と思われる生殖細胞が得られた。その発芽体の遺伝子型を解析したところ、20個体中18個体が両親の対立遺伝子を受け継いでいたことから、18組では正常に交配したことが確認された。次に、この18組の第一世代培養株から放出された生殖細胞を単離し、得られた第二世代の遺伝子型解析を行った結果、すべてホモ型のみであった。第一世代(胞子体)で検出された2種類の対立遺伝子が第二世代で分離されたことから、今回得られた交雑体はすべて通常の有性生殖型であると考えられる。天然で検出された無性スジアオノリの12遺伝子型のうち、A0/B0とB0/C0は今回の交雑実験で作出されたが、無性生殖化しなかった。hsp90遺伝子座では同じ遺伝子型でも、他の遺伝子座では配列が異なっている可能性があるため、この結果をもって交雑による無性生殖化を否定することはできない。さらに多様な有性生殖個体を集め、数多くの交雑体を作出することにより、この仮説を検証する必要がある。
3: やや遅れている
当初予定していた交雑実験は予定通り実施できたが、残念ながら交雑体が無性生殖化することはなかった。無性型スジアオノリで検出されるヘテロ接合型は12種類にのぼるが、そのうち今回の交雑実験によって作出できた遺伝子型は2つだけだった。これは様々な遺伝子型の有性生殖株の入手が困難だったことに加え、多数の培養株を一度に成熟誘導して交雑させるのが容易ではないこと、得られた全ての交雑体について生活環をまわして無性生殖化を確認する作業が煩雑で相当な時間を要することも原因である。
・2015年度の研究により、スジアオノリは遺伝子型によって淡水耐性能が異なることが明らかになった。つまり、それぞれの遺伝子型は生育に適した塩濃度環境で優占し、それ以外の環境では生育できないため、塩濃度環境によって出現する遺伝子型が異なると考えられる。そこで、三方五湖の高塩濃度域と低塩濃度域から一定量のサンプル水を採集して培養し、そこから生じたスジアオノリ発芽体の遺伝子型を特定することにより、各遺伝子型の拡散範囲を調査し、実際に環境による淘汰が起こっているのかを明らかにする。・高塩濃度域は海に近いため、低塩濃度域と比べると干満差が大きく、それに伴って潮間帯の海藻類は干出する時間が長くなる。高塩濃度域に出現する遺伝子型は低塩濃度域のものよりも乾燥耐性をもっている可能性があるため、培養株を用いて乾燥耐性実験を実施する。
日本各地で有性生殖個体を採集する計画を立てていたが、予定が合わず計画通りにはサンプリングにいけなかったために次年度使用額が生じた。
次年度はサンプル水から発芽したスジアオノリ幼体を大量にシーケンスし、遺伝子型を特定する必要があるため、シーケンス解析にほとんど使用する予定である。
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