【最終年度の研究成果】雄のアンドロゲンレベルにおける進化的制約として、アンドロゲン依存的な生理的コスト(酸化ストレス)の存在が想定される。本研究では、アンドロゲンレベルが遺伝的分化したハリヨの2つの生態型を用いて、この予測の検証を試みた。平地湧水型集団は高い雄間競争レベルと関連して、遺伝的に高いアンドロゲン合成能を保有する。その一方で急勾配河川型集団はアンドロゲンレベルは低いが、寿命が相対的に長い個体が多い。実験室内でのアンドロゲンインプラント実験により、高アンドロゲンレベルは高い酸化ストレスレベル(高い8-OHdGレベル及びSOD及びCAT遺伝子発現レベルの低下)を引き起こすこと、さらに、継続的な酸化ストレスのバイオマーカーとして知られているテロメア長の短縮を加速することが判明した。継続的な野外調査から、繁殖期における雄のテロメア動態を両生態型で比較したところ、平地湧水型集団で顕著なテロメア短縮が確認された。このことは、野外においても、繁殖と関連した高アンドロゲンレベルが高い酸化ストレスを引き起こしていること、つまり繁殖コストとなっていることを示唆している。以上の点から、アンドロゲン依存的な繁殖と生存のトレードオフは、雄のアンドロゲンレベルにおける進化的制約となっていると考えられる。 【研究期間全体の研究成果】本研究における研究成果は、トゲウオ科魚類をモデルとして、(1)繁殖戦略と関連した雄アンドロゲンレベルの適応進化における遺伝基盤の解明、(2)雌雄間のアンドロゲンレベルの相関進化とその進化要因、(3)雄のアンドロゲンレベルにおける進化的制約の検出(上記)の3点となる。
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