昨年度塩基配列の得られた、オタマボヤ綱サイヅチボヤ科のFritillaria haplostomaミトコンドリア(mt)ゲノムについて、さらに解析を進めた。F. haplostomaは少なくとも2種類の環状mtゲノムを持ち、融合しているcytochrome oxidase subunit Iとcytochrome oxidase subunit III遺伝子を2遺伝子と数えると、一般的な後生動物mtゲノムのコードする13種のタンパク質遺伝子のうち、11種類が同定された。しかし、Oikopleura spp. mtゲノム同様にtRNA遺伝子とrRNA遺伝子を見いだすことができなかった。また、F. haplostomaとOikopleura longicauda、Oikopleura dioica mtタンパク質遺伝子を含めて分子系統解析を行ったところ、共に他の尾索動物と比較して極めて進化速度が速いことが明らかになった。 尾索動物mt遺伝子の進化速度は後生動物mt遺伝子の中でも早いことが知られているが、オタマボヤ綱のmt遺伝子の進化速度は、タリア綱サルパ目と同様に特に進化速度が早いことが明らかとなった。そのため、オタマボヤ綱の尾索動物の中での系統学的位置を検討するのは難しい。そこで、オタマボヤ綱のmtゲノムのデータ数を増やすことが、尾索動物のmtゲノムに基づく分子系統解析に重要であると考え、昨年度に引き続き、オタマボヤ綱オタマボヤ科とサイヅチボヤ科に属する複数種類のmtゲノムの解析を進めている。一部の種類では、他のオタマボヤ類と異なり、15 kbps程度のmtゲノム由来と考えられるPCR産物が増幅している。しかし、オタマボヤ綱mtゲノムは連続して同一塩基が続くなどの難読配列を多く含み、通常のサンガー法による配列決定が難しいことが明らかとなった。
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