研究課題/領域番号 |
15K07199
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小沢 広和 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (20632045)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 分類 / 海洋環境変動史 / 日本列島の形成 / 貝形虫 / 底生生物 / 太平洋 / 日本海の形成 |
研究実績の概要 |
日本列島およびその周辺域において、貝形虫類(甲殻類)の多様性変遷史を解明するために、2科の貝形虫類の種の化石初出時期を探る必要がある。そのため、これらの種の化石産出が期待される、中部地方および関東地方の地層において、約1800万年前以降の代表的な地層を、本研究の調査対象とした。貝形虫の化石が、これまでは未検討であった複数の地層について、堆積岩サンプルを採取・分析し、それぞれの地層の化石群について、検討を進めている段階である。 一方、2科の生きた貝形虫類の生態は、まだほとんど解明されておらず、それらを詳しく調査するため、太平洋沿岸の相模湾および東京湾の浅海域に棲む、生きている貝形虫群集とその生息環境の水質条件、季節ごとの個体群動態(繁殖時期など)の調査および収集したデータ分析に着手した。 このうち、東京湾の浅海で生きている現生貝形虫群集とその生息環境条件(生息可能な水温・塩分・溶存酸素量・pHの範囲、これらの環境要素の夏と冬の差など)、季節ごとの個体群動態(各種の成体と幼体の出現時期とその増減・繁殖パターンなど)については、研究成果の一部を1編の論文として公表した。 また日本海側の富山県に分布する、八尾層群・黒瀬谷層および東別所層(約1800万年前~1600万年前)において、初めて貝形虫化石を抽出し、日本周辺の深海生物の多様性変遷史や日本列島および日本海の形成史について、平成27年度に投稿し受理された1編の論文が、平成28年度に学術雑誌に掲載・公表された。 さらに相模湾の野外調査で得られつつある研究成果と、八尾層群・黒瀬谷層および東別所層以外の地層から得られた貝形虫化石群データと種多様性変遷史および研究成果の公表については、学会講演と投稿論文原稿を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中部地方などに分布する複数の地層の堆積岩サンプルから、2科の貝形虫種の化石(成体および幼体段階の化石)を抽出し、分析に必要な個体数を確保する作業の途上である。 この作業においては、貝形虫化石の産出密度(特に幼体段階の化石産出の密度)が想定よりかなり低い地層や、ほとんど産出しない地層が、事前の予想よりも多かった。これは地層内で化石化する段階で、小型の幼体ほど地下水などの影響を受けて溶解しやすく、成体に比べて、予想以上に化石化しにくいため、産出数が少ないと推測される。そのため分析に必要な2科の種の化石個体数の確保(特に幼体段階の化石の個体数確保)に時間が掛かっており、個体数がまだ十分に集まっておらず、化石抽出と収集の作業に予想外の時間を取られている。 この他には、複数の地層から得た貝形虫化石群に基づく、貝形虫相の多様性変遷史および古海洋環境変動史の解析を進めている。 また対象とする2科の貝形虫種の生息が予測される、相模湾と東京湾沿岸の浅海域で、現在生きている個体を季節ごとに採取している。これらのデータを基に、各種の四季に応じた出現・繁殖様式を含む個体群動態と生活史を明らかにし、各種の好適生息環境の水質条件(生息可能な水温・塩分・溶存酸素量・pH範囲、これらの要因の夏冬間の差)を特定しつつある。 これらの研究によって、相模湾および東京湾でこれまで得られてきた、生きている種の生態に関する研究成果や、複数の地層から得られた貝形虫化石群データと古海洋環境変遷史および種多様性変遷史に関する研究成果の公表については、学会大会講演と投稿用の論文原稿を、現在準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
中部地方と関東地方に分布する、200万年前以降の複数の地層産の貝形虫化石群について、貝形虫相の多様性変遷史および古海洋環境変動史と、対象とする2科の貝形虫種の化石産出様式(初出時期など)を検討する。これによって、2科の種について、より多くの化石標本(特に幼体段階の化石標本)を収集できるように努力する。 これら2科の種の化石標本収集が思うように進まなかった場合は、対象とする2科の貝形虫種の生息が予測される相模湾と東京湾沿岸の浅海域で、現在生きている個体を引き続き季節ごとに採取し、出現時期や繁殖期を調査する。これらのデータから、各種の成体と幼体が四季に応じてどのような出現・繁殖様式を示すのかを解明し、個体群動態と生活史を詳しく明らかにする。また各種の生態データを基に、2科の種の夏と冬の好適な生息環境の水質条件(生息可能な水温・塩分・溶存酸素量・pHの範囲、各種の夏冬間の差)をさらに詳細に特定する。 これら一連の調査研究によって得られた、2科の多様性変遷史に関する成果、相模湾・東京湾で現在生きている種の生態に関する成果、複数の地層から得られた貝形虫化石群データと古海洋環境変遷史および種多様性変遷史に関する成果の公表については、学会講演と投稿用論文原稿を、随時準備していく予定である。
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