母島列島内のオオバシマムラサキには4つのエコタイプ(Dry、Edge、Glabrous、Tall)があることが明らかにされた。これらのエコタイプ間の花粉流動を定量化するために、自然条件下で受粉した種子の交雑率をマイクロサテライトマーカーを用いて調べた。Dry 24.6%、Edge 28.7%、Glabrous 40.7%、Tall 3.3%、全体では23.2%であった。種子段階での交雑率はGlabrousで高く、Edgeとの交配が多い傾向にあった。母樹間の花粉親の相関(Correlated paternity)は、基本的には同じ系統内の母樹間ペアでは正の相関、異なる系統間の母樹間ペアでは負の相関がみられたが、EdgeとGlabrousの間では異なる系統間であるにも関わらず正の相関がみられた。各エコタイプはDryが夏と秋の二度咲、EdgeとGlabrousが夏咲、Tallが秋咲である。開花フェノロジーが重複するEdgeとGlabrousの間での交雑が生じやすいことが明らかとなった。 湿性環境および乾性環境でDryおよびGlabrousの苗の開花調査を昨年度から継続して行ったが、水分環境により開花期がずれることはなかった。今回の実験からは水分環境がエコタイプ分化に寄与しているという証拠は得られなかった。また、昨年度取得したオオバシマムラサキのドラフトゲノムのアセンブルを行った。アセンブルの結果、得られたドラフトゲノム配列のカバー率は約60%、植物のcore gene 1440のうち86.1%が検出された。このデータは今後オオバシマムラサキのRad-Seq、RNA-Seq、機能遺伝子解析などを行う際のレファレンスとして十分に利用できると期待される。
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