細菌が恒常的に細胞外に分泌する細胞外膜小胞は、シグナル情報伝達などの細胞間コミュニケーションとしての機能だけでなく、遺伝情報物質の細胞間輸送にも関与しており、新たな遺伝子伝播因子としての可能性が注目されている。本研究の目的は、深海底熱水生態系を代表する生物モデルとして、多様なエネルギー代謝経路を持ち、ダイナミックな熱水環境に適応したイプシロンプロテオバクテリア綱の化学合成独立栄養細菌を用いて、細胞外膜小胞に内包される遺伝情報の網羅的解析を行い、その生態学的・進化学的機能を詳細に把握することである。これまでに、深海底熱水活動域から単離したイプシロンプロテオバクテリアについて、細胞外膜小胞の産生能の有無およびその形態を明らかにした。また、細胞外膜小胞の産生株について、ドラフトゲノム配列を決定した。本年度は細胞外膜小胞の産生能が高かったNautilia sp. YY08-34株を代表株として用い、細胞外膜小胞内の遺伝情報の特徴を明らかにした。精製した細胞外膜小胞から抽出した核酸について、(1) REPLI-g Mini Kit を用いて微量核酸増幅後にライブラリ作製、(2) KAPA HyperPrep kitを用いて微量DNAからのライブラリ作製、の2種類の異なる方法によりライブラリを作製し、次世代シーケンサーを用いてシーケンス解析を行った。得られた配列リード数から各機能遺伝子の含有量を定量化したところ、どちらのライブラリ作製法においても、特定の領域に偏ることなく(プロファージ領域を除く)、ゲノム全体がほぼ均等に細胞外膜小胞内に内包されていることが明らかとなった。したがって、イプシロンプロテオバクテリアにおいても細胞外膜小胞を介した遺伝子伝播機構が存在することが示唆された。
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