研究課題
生物群集に稀有な撹乱が及ぼす影響を明らかにする上で、以前の環境と群集の長期データは極めて有効である。本研究では三陸沿岸で行ってきた岩礁潮間帯生物群集の調査を継続発展させ、岩礁潮間帯生物群集への東北地方太平洋沖地震のインパクトとその後の回復過程を解明することを目的とした。明らかになったことは以下のとおりである。多重撹乱としての地震の影響:岩礁潮間帯では波浪によって生じた小さな裸地における遷移が種多様性の維持に重要な役割を果たすが、この遷移が巨大地震後に変化するかを検証するために、地震前後に撹乱パッチを模倣した人工裸地を作成し、固着生物の遷移を追跡した。その結果、種多様性と群集構造の空間変異性は地震後に大きくなった。このような局所撹乱パッチでの遷移の地震後の変化は、種プールであるメタ群集に生じた変化を反映していることを示唆された。帯状分布の長期的変化:8種の固着生物の帯状分布の地震後6年間の変化を追跡した。その結果、帯状分布の回復は遷移後期種では遅いことなどが明らかになった。また、潮間帯全域で見た場合、地震後6年間経っても岩礁潮間帯の固着生物群集は未だ回復しておらず、それが元にもどるにはさらに長い時間を要することが示唆された。津波のインパクト評価:自然災害の生物個体群へのインパクトの大きさがどのように決定されているかを包括的に評価する新手法を提案し,東日本大震災の際の津波が岩礁生物の個体群に及ぼした被害の大きさを,様々な生物における気象災害(嵐,低温,干ばつ)の大きさと比較した。その結果、災害の種類と関係なく災害の強度が強くなるほど生物がこうむる被害は大きくなり,被害のばらつきも大きくなることが明らかになった。また,爆弾低気圧などの気象災害と比べて津波の強度は極めて大きいにも関わらず,これらの気象災害と比べて岩礁の生物における津波の被害は小さかったことが明らかになった。
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