ヒ素化合物は深刻な被害をもたらす環境汚染物質であり、微生物の作用によって移動性や毒性などの性質が変化する。微生物の活動によるヒ素の変換の中でも、「無酸素条件下での酸化」は、その潜在的な重要性は示唆されているが実態についてはほとんど明らかとなっていない。本研究では、この過程を担う嫌気性ヒ素酸化細菌を環境中から網羅的かつ効率的に検出するためのツールを開発し、その多様性と環境中での分布を明らかにすることを目的とした。嫌気性ヒ素酸化細菌を選択的に検出するためのマーカーとして有力視されているarxA遺伝子を対象に、以下の研究を行った。既知のarxA遺伝子の多くは、高い塩濃度と高いpHに特徴づけられる環境に生息する微生物から見出されていた。より多様なarxA遺伝子の検出を可能とする特異的プライマーを設計し、低い塩濃度と中性付近のpHを持つ環境試料の解析を行った。その結果、既知のものとは系統的に明確に異なるarxA遺伝子が検出された。この遺伝子の多様性は従来考えられていたよりも高く、これまで知られていたものは特定の環境に適応した一部のものであることが示唆された。また、arxA遺伝子を保持する微生物の多くが硫黄酸化細菌であることに着目し、新規硫黄酸化細菌の探索とそのゲノム解析を行った。その結果、ゲノム上にarxA遺伝子を有する微生物を複数発見した。これらの微生物は全て淡水環境から得られたものであり、そのarxA遺伝子は同様の環境から直接得られたものと同じ系統に属していた。淡水環境に特徴的なarxA遺伝子の系統が存在することは、公共データベース上のメタゲノムデータを対象とした解析によっても支持された。
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