昨年度までに行った、メタ16Sとメタゲノム配列データの解析パイプラインの開発と公共のメタ16S・メタゲノムデータの解析により、系統組成が全く異なる細菌群集間で遺伝子の機能組成が生息環境に依存して類似する、細菌群集の収斂現象が起こっていそうなサンプルペアを抽出することができた。それらのサンプルペアは、大まかな傾向としては、土壌等の非常に多様な群集に比べると、宿主に共生する細菌群集や極地等の極限環境等、中程度以下の系統的な多様性の群集に多い傾向が見られた。 なお、遺伝子の機能組成をどのレベルで整理するかによって収斂現象が起こっていそうなサンプルペア数は大きく変化し、かつ、遺伝子機能組成として類似していると推定されたサンプルペア間でも、各遺伝子機能にアサインされた遺伝子の機能ドメイン構成やオペロン構造等のレベルまで詳細に解析すると、サンプルペア間でそれらは大きく異なっている場合が多く、水平伝播等で様々な環境間で同一の遺伝子クラスターやオペロンが移動していることが、収斂現象の原因である可能性は低いことが明らかになった。 研究を進める過程で、どこまで遺伝子機能を細かく分類するか、特に、実験的な機能解析が詳細に行われているモデル微生物から遠いが環境中では優占している系統群に対して、配列データのみからどの程度詳しい遺伝子機能を推定できるかという問題点に直面した。今後、本研究で得られた収斂現象が起こっていそうなサンプルペアの情報と、高度なバイオインフォマティクスの解析技術や高精度なリファレンスデータベースが組み合わされることによって、なぜある環境で特定の遺伝子機能組成を持った群集が形成されるのか、等の研究へと発展できると期待される。
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