北アルプス立山の高山帯(室堂~浄土山周辺)、長野県の菅平高原、スウェーデンの北極圏にあるアビスコ国立公園の高山帯と亜高山帯で、植物群集の開花フェノロジーを記載するとともに、各植物種を利用する訪花昆虫の調査、訪花昆虫の形態および 花の形質の調査、およびポリネーターの体表花粉及び柱頭付着花粉の分析を行った。これらの結果を、過去の調査で得た、ニュージーランドの高山帯、モンゴルの半乾燥高原草原のデータと比較した。その結果、双翅目訪花者の割合が多い地域ほど、植物群集における花形質(花色および形態)の多様性が低くなる傾向が見出された。また、同一地域内であれば、双翅目訪花者が利用する植物種のほうが、それ以外の訪花者分類群(膜翅目と鱗翅目)が利用する植物種よりも、概して花形質の多様性が低いことがわかった。また、双翅目訪花者を分類群ごとにわけて解析したところ、分類群ごとに異なる選択的な訪花パターンを示すことがわかった。 ポリネーターによる選択的な訪花行動は、植物種の多種共存を支える重要な性質である。一般に双翅目ポリネーターの多くは、膜翅目ポリネーターや鳥類ポリネーターなどに比べ、生態系サービスの観点からは評価が低い傾向にある。本研究の結果から、これまでの評価に一定の妥当性はあるものの、双翅目ポリネーターが多様であることも、地域の植物の多様性に貢献しうることが示唆された。また、双翅目ポリネーターを分類群ごとに分けて評価する重要性も示された。
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