研究課題/領域番号 |
15K07218
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
服部 昭尚 滋賀大学, 教育学部, 教授 (90273391)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 種数面積関係 / サンゴ礁 / 生息地の構造 / 景観 / 行動観察 / 画像解析 / 種間なわばり |
研究実績の概要 |
SLOSS問題(面積が同じなら単一の生息地と複数の生息地群のどちらで生息種数や個体数が多くなるのか)と競争と分散の種間トレードオフによる共存機構ついて、石垣島白保海岸で得られた結果が他の場所でも成立するのかどうかを知るために、瀬底島琉球大学熱帯生物圏研究センター前の海域において、石垣島白保海岸での調査と同じ方法を用いてスズメダイ科魚類を対象に調べた。その結果として、クロソラスズメダイ、ハマクマノミ、ハナビラクマノミは競争優位種と見なすことができ、クロスズメダイ、クマノミ、ミツボシクロスズメダイは移動分散優位種であると見なすことができた。しかし、白保海岸で確認できた「総面積が同程度であれば、大リーフよりも中リーフ群で生息種数や個体数が多くなる傾向」は瀬底島での調査では観察されず、同じ資源を利用する種間での競争戦略と分散戦略による共存機構の存在も確認できなかった。瀬底島の観察エリアでは、白保海岸と比較してサンゴ礁の発達程度が低く、礁池内に明確な立体構造を持つパッチリーフがなかったためであり、瀬底島でのパッチリーフは礁縁外側の水深3m前後の砂地にあり、白保の礁池よりも1m程度水深が大きく、大パッチリーフでもその高さは水面にまでは達していなかった。「総面積が同程度であれば、大リーフよりも中リーフ群で生息種数が多くなる傾向」が見られなかった理由は、大パッチリーフが水面まで達していなかったことであると考えられた。底面積の大きい立体リーフでは、すみ分けによる共存が可能なためである。水深1m程度の違いが反映されるとは予想していなかったが、白保海岸での結果と矛盾はなかった。 一昨年度の研究で得られた知見については、第13回国際サンゴ礁学会(ホノルル)において研究発表を行い、昨年度末に原著論文としてまとめ国際誌に投稿できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SLOSS問題の再検討として、サンゴ礁の浅い礁池においては、パッチリーフの総面積が同じであれば、大リーフよりも中小リーフ群で生息種数や個体数が多くなるのかについて、一昨年度、観察範囲を3倍(3ha)に拡げても同様の現象が見られることを確認でき、さらに、昨年度、白保海岸での研究成果をより一般化するために、瀬底島で比較研究を行ったが、白保海岸で見られたような現象は瀬底島では観察できなかった。これは、瀬底島の観察エリアのサンゴ礁が白保海岸と比較して発達程度が低く、パッチリーフの基部の水深が1m程度深いことが関係していると考えられた。この点はこれまでの仮説と矛盾するものではなかったが、瀬底島では同じ面積の観察エリア内のパッチリーフの総数が少なく、地形的な特徴が異なるため、積極的に仮説を支持する結果とまでは言えない。ただし、「総面積が同程度であれば、大リーフよりも中リーフ群で生息種数が多くなる傾向」には浅い地形が大きく作用していることを明確にすることにはなった。 一昨年度の調査により、白保海岸で確認した移動分散優位種のデータ整理を行うなかで、ミナミイソスズメダイとデバスズメダイは定住性が高いものの、移動分散優位種である可能性が生じてきた。個体識別移動調査の観察エリアを大幅に狭くして隣接する複数のパッチリーフ間で調査することが有効であることがわかった。特にミナミイソスズメダイはこれまでに生態調査がほとんどなされていな種であり、また、デバスズメダイは競争優位種と思われるミスジリュウキュウスズメダイと同じ生息地に共存して見えるため、競争と分散の種間トレードオフの詳細を観察するにはよい対象である。大面積の立体リーフによるすみ分けが十分にできない場合、中面積の立体リーフ群を利用した競争と分散の種間トレードオフによって共存が成立するのではないかと作業仮説をたてている。
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今後の研究の推進方策 |
SLOSS問題を石垣島と瀬底島で比較することに利点が少ないことがわかったため、以前から調査を継続している石垣島白保海岸においてSLOSS問題への「競争と分散の種間トレードオフ」の影響を掘り下げることにする。これまでに競争優位種としてのクロソラスズメダイやハナナガスズメダイ、スズメダイモドキ、ハマクマノミの種間競争に関する知見が深まったが、移動分散優位種としては、クロスズメダイを除くと、個体識別追跡調査が比較的困難であり、まだ理解が進んでいない。ミナミイソスズメダイやヒレナガスズメダイ、オヤビッチャ、ロクセンスズメダイは、長距離移動は行うものの特定の大リーフに比較的長く滞在しているようであった。また、デバスズメダイは定住性が高いものの、移動分散優位種である可能性が見えてきた。このため、今年度は個体識別移動調査の観察エリアを当初の計画よりも少し狭くし、隣接する複数のパッチリーフ間での追跡を行う。特にミナミイソスズメダイはこれまでに生態調査がほとんどなされていな種であり、また、デバスズメダイは競争優位種のミスジリュウキュウスズメダイと同じ生息地において共存するため、「競争と分散の種間トレードオフ」に関する知見が深まるものと期待できる。 しかし、一昨年度の白保調査直後の9月の台風の影響によって地形が大きく変わり、パッチリーフが移動したり、消失していることが判明した。市販の航空写真画像は10年に1度程度でしか更新されないため、これまで用いてきた航空写真画像では調査に支障が出てしまう。今年度は無人航空機を導入して部分的な空撮を行い、パッチリーフの最新画像を取得して科研費による研究テーマを完了したい。 今年度、国際誌に投稿中の原著論文を受理させ、さらに、収集・解析したデータを用いて今年度末の日本生態学会において研究発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年度の白保調査直後の9月の台風の影響によって地形が大きく変わり、昨年度末にパッチリーフが大きく移動していることが判明した。市販の航空写真画像は10年に1度程度でしか更新されないため、これまで用いてきた航空写真画像では調査に支障が出る。科研費による研究を遂行できるようにするために、次年度に無人航空機を導入して部分的な空撮ができるよう一部助成金を繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
空撮を行うために導入する無人航空機の予備バッテリー等の購入に使用する計画である。
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